妊娠中のパラセタモール使用と児の自閉スペクトラム症(ASD)・注意欠如多動症(ADHD)との関連は、近年大きな関心を集めている。一方で、従来の観察研究では、母体の疾患、疼痛や発熱といった服用理由、遺伝的背景や家庭環境などの交絡を十分に除去できていない可能性がある。本論文は、香港の大規模電子医療データを用い、曝露状況が異なる同胞を比較するデザインによって、妊娠中パラセタモール曝露と児のASD・ADHDリスクとの関連を検討した研究である。

参考文献

Luo S, Gong Q, Ai Y, et al. Prenatal acetaminophen (paracetamol) use and the risk of autism and/or attention-deficit/hyperactivity disorder among sibling-matched cohorts. JAMA Intern Med. Published online June 29, 2026. doi:10.1001/jamainternmed.2026.2215

妊娠中のアセトアミノフェン使用と、同胞マッチドコホートにおける児の自閉スペクトラム症および注意欠如・多動症リスクとの関連 [香港編]

研究の背景/目的

妊娠中のパラセタモール使用は、児のASD・ADHDリスク上昇と関連するとの観察研究がある一方、発熱、感染、慢性痛、精神疾患、遺伝的素因などによる交絡が問題となる。特にASD・ADHDは家族内集積が強く、通常のコホート研究では共有遺伝因子や家庭環境を十分に調整しにくい。本研究は、曝露が異なる同胞を比較することで、こうした未測定の家族内交絡を抑え、妊娠中パラセタモール曝露と児の神経発達アウトカムとの関連を検証した。

研究の方法

香港の電子医療記録を用いた人口ベースコホート研究で、2001〜2023年の母児ペア70万8020組を対象とした。主解析では、同一母から出生し、妊娠中パラセタモール曝露が異なる同胞を抽出し、家族で層別したCox比例ハザードモデルを用いた。ASDは2年以上、ADHDは5年以上追跡可能な児を対象とし、母体背景、妊娠中疾患・併用薬、出生時因子を調整した。通常コホート解析、負の対照曝露解析も実施した。

研究の結果

同胞マッチド解析の対象はASDで12万4333人、ADHDで9万7285人だった。妊娠中パラセタモール曝露とASDの関連は調整HR 1.00(95%CI 0.91–1.11)、ADHDは1.01(0.93–1.08)で、いずれも明確な関連を認めなかった。曝露時期、使用パターン、累積投与量、7日以上の連続使用などでも結果は概ねnullだった。一方、通常コホート解析ではASD HR 1.17、ADHD HR 1.23と正の関連がみられ、妊娠前曝露でも同様の関連が出た。

結論

通常コホート解析と妊娠前の負の対照解析でも正の関連がみられたことから、著者らは従来報告されたリスク上昇の多くを、家族性・遺伝的背景や適応疾患による残余交絡と解釈している。大規模な同胞比較と詳細な処方データは強みであるが、OTC購入や私的診療での使用は捕捉できず、曝露誤分類や共有されない妊娠ごとの交絡は残る。また、出生順別の補足解析と主解析の整合性については、追加のモデル仕様・人数・イベント数の開示が望まれる。

考察と感想

本研究は、妊娠中パラセタモール曝露と児のASD・ADHDリスクを、曝露状況が異なる同胞間で比較した大規模コホート研究である。通常コホート解析では曝露とASD・ADHDの正の関連が認められたが、家族で層別した同胞比較では関連はほぼ消失した。この差は、遺伝的背景、家庭環境、母体の疾患や受療行動など、家族内で共有される未測定交絡の影響を示唆する。

さらに、妊娠前・産後の曝露でも正の関連が認められたことは、通常コホートでみられた関連が薬剤そのものの因果効果だけでは説明しにくいことを支持する。処方記録を用いて曝露時期、使用パターン、投与量まで評価した点は本研究の強みである。一方、OTC使用や私的診療での処方を把握できないため、実際の曝露とのずれは残る。総じて、本研究は妊娠中パラセタモール使用とASD・ADHDの因果的関連を強く支持しない結果を示した。

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