市中発症敗血症で入院した成人患者における抗菌薬のデエスカレーション[アメリカ]
セプシスの管理において、多剤耐性菌(MDRO)をカバーする広域抗菌薬(BSA)の早期投与は命を救うために重要です。しかし、広域抗菌薬を必要以上に長く使い続けることは、副作用や耐性菌の出現といった患者への害を招く恐れがあります。現在のガイドラインでは、検査で耐性菌が検出されない場合には、より狭い範囲に効く薬へ切り替える「デエスカレーション」が推奨されていますが、その安全性や実際の効果については臨床現場で意見が分かれていました。本研究は、ミシガン州の67の病院から集まった36,924人の大規模データを用い、入院4日目に抗菌薬を縮小することが患者の予後にどう影響するかを詳細に検証したものです
市中発症敗血症で入院した成人患者における抗菌薬のデエスカレーション[アメリカ]
研究の背景/目的
多剤耐性菌(MDRO)を標的とした早期の経験的広域抗菌薬(BSA)治療は、敗血症管理において重要ですが、長期間の曝露は耐性菌の出現や副作用などの患者への害を伴う可能性があります。ガイドラインではMDROが検出されない場合のデエスカレーションを推奨していますが、敗血症におけるその臨床的影響や安全性については、過去の研究で結果が分かれており、不明確な点が多く残されていました。本研究の目的は、市中発症セプシスで入院し、MDRO感染の証拠がない患者において、入院4日目の広域抗菌薬のデエスカレーションと継続によるアウトカムを比較・評価することです。
研究の方法
ミシガン病院医学安全コンソーシアム(HMS)に参加する67病院のデータを用いた、標的試験模倣(target trial emulation)研究として実施されました。2020年6月から2024年9月までに入院した18歳以上の市中発症セプシス患者のうち、初日に広域抗菌薬を開始し、1〜2日目にMDRO陽性の証拠がない患者を対象としました。
解析では、抗MRSA薬と抗緑膿菌(PSA)薬の2つのデエスカレーションについて個別に評価が行われました。 • 介入内容: 4日目に広域抗菌薬を中止した「デエスカレーション群」と、4日目も継続した「継続群」を比較しました。 • 統計手法: 逆確率治療重み付け法(IPTW)を用いて、患者の背景特性や病院による偏りを調整し、群間のバランスを確保しました。 • 評価項目: 主要評価項目は90日全死亡率とし、副次評価項目として院内死亡率、30日死亡率、入院期間、14日目までの抗菌薬投与日数を設定しました。
研究の結果
36,924人の敗血症患者のうち、抗MRSA薬の解析対象は6,926人(うち43.2%がデエスカレーション実施)、抗PSA薬の対象は11,149人(うち22.4%が実施)でした。
• 安全性: 重み付け後の解析において、抗MRSA薬および抗PSA薬のいずれのデエスカレーションも、90日死亡率に関して継続群と有意な差はありませんでした(抗MRSA:オッズ比 1.00、抗PSA:オッズ比 0.98)。
• 有効性: デエスカレーション群は継続群と比較して、抗菌薬の投与日数が有意に短く(両群ともリスク比 0.91)、入院期間も有意に短縮されました(両群ともリスク比 0.88)。
• サブグループ解析: 3日目時点で臨床的に安定していた患者群では、抗MRSA薬のデエスカレーションが90日死亡率の低下と関連していました(オッズ比 0.72)。
• 現状の差異: デエスカレーションの実施率は病院間で2倍以上の大きな開きがあり、実践状況にばらつきがあることが示されました。
結論
市中発症セプシスにおいて、MDROが検出されない場合の4日目における広域抗菌薬のデエスカレーションは、安全性を損なうことなく、抗菌薬曝露量と入院期間を削減できることが示唆されました。本研究の結果は、適切なタイミングでの抗菌薬の見直しを推奨する現在のガイドラインを支持するものであり、不必要な広域抗菌薬の使用を減らすための重要な根拠となります
考察と感想
本研究の特徴の一つは、観察データを用いながら、ランダム化比較試験を想定して解析を行う標的試験模倣(target trial emulation)を採用している点です。これにより、日常診療データを用いつつも、因果推論を試みています。
その結果、抗MRSA薬を4日目にデエスカレーションしても90日生存率は継続投与の場合と差がなく、安全性が損なわれないことが示されました。一方で、抗菌薬の総投与日数や入院期間はおよそ1割短縮されており、効率面での明確な利点が確認されています。
さらに、入院3日目の時点で全身状態が安定している患者に限定すると、抗MRSA薬の中止は90日死亡率の低下と関連しており、オッズ比は0.72でした。デエスカレーションが単に安全であるだけでなく、予後改善につながる可能性を示唆する結果といえます。
加えて、病院間でデエスカレーションの実施率に2倍以上の差があることも明らかになりました。これは、施設ごとの診療慣行の違いを可視化するとともに、医療の質をさらに向上させる余地が大きいことを示しています。
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