抗インフルエンザ薬

小児インフルエンザの検査と薬のまとめ [2019年度版]

  •  インフルエンザかと思って、すぐに受診しました
  •  インフルエンザ用の薬を飲まないと治らない、悪化すると思っていました

インフルエンザが流行してくると、小児科外来は発熱患者で混み合います。外来受診の目的は様々ですが、インフルエンザの検査と治療薬の処方につきます。

外来を受診し、薬を処方される場合にいくつか知っておいたほうが良いことがありますので、過去の論文紹介の記事を提示しながら、簡単にまとめていければと思います。

先にまとめてしまうと、ポイントは以下の通りです。

ポイント

  •  受診するのは発熱して1日ほどしてから
  •  インフルエンザは自然に治ることがほとんど
  •  抗インフルエンザ薬は、発熱期間を1日ほど短縮させる
  •  一部の薬は中耳炎などの合併症のリスクを下げる
  •  重症化の予防はしない可能性が高い

受診のタイミングについて

まずは受診のタイミングについて簡単に解説しましょう。ここでは受診するタイミングと、検査は本当に必要か否かを少し解説していきます。

受診するタイミングについて

インフルエンザの迅速検査は発熱後24-48時間に!今回の論文はこちら: 2011年のEuropean Journal of Pediatrics (欧州小児科学会の英文誌)に掲載さ...

受診をする際に重要なことは、検査の正確性が高い時を狙うのが良いでしょう。

発熱後、まもないと「まだ早すぎるから」という理由で、再受診を支持されることがあります。これは、医師が患者や保護者に意地悪をしているわけでは決してなく、発熱後すぐだと検査の感度が非常に低いからです。つまり、早くに受診しすぎて検査をすると「検査が陰性でも、実は本当はインフルエンザだった」という可能性が残ってしまうのです。

理想的には発熱後、24-48時間の間に受診されると良いでしょう。

*この研究結果はスイスで行われたもので、現在の日本の危機はもう少し性能が良いと思います。これらのデータは現在集めているところです。その点は、ご容赦ください。

検査は本当に必要?

小児インフルエンザの臨床診断はあてにならない?小児におけるインフルエンザの臨床診断の正確性が気になっている方へ 今回はこちらの論文をピックアップしました。 インフルエンザの臨床診...

「インフルエンザは問診だけで診断がつく」といった趣旨の発言をされている医師もいるようです。ですが、実際に臨床をしていると「違うと思ったけれども、インフルエンザだった」や「インフルエンザだと思ったけれども、実際はインフルエンザでなかった」と言った例は日常茶飯事です。

実際に、医師の臨床診断 vs. 検査結果による診断で、どのくらい感度・特異度が変わるかを検討した研究があります。詳しくは上のリンクを見てください。
結果ですが、感度は良くて45〜50%、特異度は90%以上という結果です。

これが何を意味するかですが、感度が非常に低いので臨床診断ではインフルエンザを見逃す可能性が高い(偽陰性)と言えます。つまり、「インフルエンザじゃないと医師は臨床上判断したが、実はインフルエンザであった」というケースがかなり多くなります。

このため、私個人としては「インフルエンザの診断」にこだわるようでしたら、きちんと検査をすることをお勧めします。

抗インフルエンザ薬について

次に、抗インフルエンザ薬について解説していきましょう。主な点としては、

  •  薬がないと治らないと思っていませんか?
  •  どの薬を飲んだらいいのか迷ったら参考にして欲しい資料

の2点をみていきましょう。

薬がないと治らないと思っていませんか?

インフルエンザの予防接種の時や、シーズン前に少しだけ患者さんにインフルエンザの前知識を説明しておくことがあります。子供が発熱ならパニックになりますし、「病院に行って、早く薬を」と思考が極端になってしまうからです。

オセルタミビル(タミフル®︎)は発熱期間を短縮させているのか? [日本編]  タミフル®︎(オセルタミビル)の効果を知りたい  実際にどのくらい発熱期間が短縮するのか?  日本の小児におけるデータは...

こちらでインフルエンザにおいて治療をした場合と、しなかった場合の結果を載せています。注目して欲しいのは、こちらの表の赤いボックスのデータです。(Nが少ない点はご容赦を)

「インフルエンザの特効薬を飲まないと治らないと思っていた」という保護者が多いですが、実はそうではありません。

インフルエンザも風邪の一種です。通常の風邪より、高熱が長めに続いたりしますが、基本的には自然に治ります。ただ、薬を使用しないと熱が1日くらい長く続くだけなのです。

治療薬の種類について

治療薬には

  •  タミフル®︎
  •  リレンザ®︎
  •  イナビル®︎
  •  ラピアクタ®︎
  •  ゾフルーザ®︎

などがあります。私個人としては、基本的にはタミフル®︎のみを推奨していますが、以下のような根拠をもとに判断しています。

タミフル®︎について

小児のインフルエンザとオセルタミビル(タミフル®︎)に関する考察 [メタ解析]抗インフルエンザ薬の適応について、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)5, アメリカ小児科学会(AAP)6、アメリカ感染症学会(IDS...

研究数は少ないですが、タミフル®︎についてですが行われたシステマティックレビューとメタ解析があります。こちらの結果では、タミフルを内服すると

  •   1日ほど発熱期間が短くなる
  •   中耳炎のリスクが下がる
  •  気管支炎のリスクが下がる

かもしれないというデータがあります。一方で、入院するほどの重症化や肺炎、副鼻腔炎といった合併症の予防効果は認められていません。

タミフルを内服すると嘔吐しやすくなることもわかっています。

リレンザ®︎に関して

小児のインフルエンザとザナミビル(リレンザ®︎)・ラニナミビル(イナビル®︎)  小児のインフルエンザの吸入薬って有効なのか?  ザナミビル(リレンザ®︎)やラニナミビル(イナビル®︎)のエビデンスはあるの...

タミフル®︎とは異なり、リレンザ®︎は吸入するタイプの薬です。リレンザ®︎が小児のインフルエンザに有効であるかを検討したシステマティックレビューとメタ解析もあります。

結果の要約ですが、リレンザ®︎は

  •  発熱期間を1日短縮させる
  •  肺炎のリスクを下げる
  •  気管支炎や副鼻腔炎のリスクをわずかに下げるかも

といった結果が出ています。タミフル®︎とは異なり、中耳炎の予防効果は認められていません。

吸入薬は基本的に小学生以上で処方されることが多いです。5歳未満の乳幼児では吸入を上手にできないでしょうし、中耳炎の予防効果もないため、基本的にタミフル®︎を使用することになります。

イナビル®︎に関して

小児のインフルエンザとザナミビル(リレンザ®︎)・ラニナミビル(イナビル®︎)  小児のインフルエンザの吸入薬って有効なのか?  ザナミビル(リレンザ®︎)やラニナミビル(イナビル®︎)のエビデンスはあるの...

イナビル®︎も吸入するタイプの薬で、5〜7歳以上の小児で使用可能です。リレンザ®︎との違いですが、イナビルは最初に吸入すれば、5日間効果が持続するため、繰り返し毎日吸入する必要がない点です。

国内で行われたRCTでは、イナビル®︎を内服すると、発熱期間の短縮効果はタミフル®︎と同等か、それ以上の効果があったと報告されています。
しかし、このRCTではワクチン接種率がグループ間でかなり異なるため、私はこの結果をそこまで信頼していません。

一方で、イナビル®︎はアメリカでも臨床試験がされていますは、プラセボと比較してインフルエンザ症状の改善効果が認められませんでした。イナビル®︎に関しては、より追加検証が必要なのですが、意外とこの事実を知らない臨床医も多いと私は思っています。

ラピアクタ®︎について

小児の抗インフルエンザ薬は結局どれを使用すればよいのか?〜タミフル vs. リレンザ vs. イナビル vs. ラピアクタの比較試験〜今回はこちらの論文をピックアップしました。 小児の抗インフルエンザ薬(Neuraminidase阻害薬)4剤を比較した日本発のRCTで...

小児科外来ではほとんどいませんが、「インフルエンザの特効薬を点滴して欲しい」とお願いされることがあります。
一般の方々からすると、点滴は特別感があり、薬をダイレクトに投与するため、非常によく効くイメージがあるかもしれません。

タミフル®︎ vs. リレンザ®︎ vs. イナビル®︎ vs. ラピアクタ®︎で発熱期間を比較した研究がありますが、どれも効果はそれほど変わりませんでした。

点滴をしたからといって劇的に改善するわけではなく、点滴による痛みを伴うわりに有効性は内服薬や吸入薬と変わらないのです。

ゾフルーザ®︎について

小児のインフルエンザにゾフルーザ®︎(Baloxavir)を使用すると、2割強でウイルス変異が生じたゾフルーザ®︎(Baloxavir)の発売が始まって、大人では使用している医師もいるようですが、小児に限って言えばデータがなさすぎて、慎...

ゾフルーザ®︎は1回内服で有効性のある夢の新薬のように語られていますが、冷静にデータを探してみましょう。

まず、ゾフルーザ®︎の有効性を検討した質の高い研究は小児においてはありません。小児においてデータがないため、安易に使用しない方が良いと私は考えています。

また、副作用も少なからず認められており、嘔吐(7.5%)・下痢(2.8%)を認めることがあります。これはタミフル®︎と比較してもほぼ同等の頻度です。

最後に、ゾフルーザ®︎を使用した場合、治療後に変異が23.4%で出現しているのがわかっています。安易に使用せず、変異株を増やさない努力をすることも重要です。

まとめ

今回は小児のインフルエンザ検査と薬について簡単にまとめてみました。

今後、情報がアップデートしたら、また更新していこうと思います。

ポイント

  •  受診するのは発熱して1日ほどしてから
  •  インフルエンザは自然に治ることがほとんど
  •  抗インフルエンザ薬は、発熱期間を1日ほど短縮させる
  •  一部の薬は中耳炎などの合併症のリスクを下げる
  •  重症化の予防はしない可能性が高い

 

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ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。