出生児におけるRSV関連入院に対するニルセビマブとRSVプレフュージョンFワクチンの比較 [フランス]
RSV予防をめぐっては、母体RSVpreFワクチンと新生児へのニルセビマブ投与という二つの選択肢が、実臨床で同時に用いられる時代に入りました。本論文は、フランス全国データを用い、同一シーズン・同一母集団において両者を直接比較した初めての大規模研究です。RSV関連入院だけでなく、PICU入室や呼吸補助といった重症アウトカムまで評価しており、今後のRSV予防戦略や政策判断を考えるうえで重要な示唆を与える内容となっています。
出生児におけるRSV関連入院に対するニルセビマブとRSVプレフュージョンFワクチンの比較 [フランス]
研究の背景/目的
RSVは乳児、とくに生後早期の下気道感染による入院の主要因です。近年、予防戦略として、妊婦へのRSVpreFワクチン接種による胎盤移行抗体(母体ワクチン)と、新生児への長時間作用型モノクローナル抗体ニルセビマブ投与(受動免疫)が実装されました。ただし、同じシーズン・同じ母集団で両者を直接比較した実臨床データは乏しく、どちらが入院や重症化をより抑えるかは不明でした。そこで、本研究は母体RSVpreFワクチンとニルセビマブの、RSV関連入院予防に関する比較効果を検証することを目的としています。
研究の方法
フランスの全国データベース(French National Health Data System)を用いた人口ベースのコホート研究です。対象は、2024年9月1日〜12月31日にフランス本土で出生し、(1)母親が妊娠32〜36週にRSVpreFワクチンを接種した群、または(2)児が退院前にニルセビマブを投与された群です。両方を受けた例、推奨週数外での接種、母体接種から14日以内に出生した例などは除外しています。
比較の公平性を高めるため、退院日、性別、在胎週数、居住地域で1対1マッチングを行い、さらに母児の背景因子(社会経済指標、妊娠中の他ワクチン、既往・併存症、出生時のリスクなど)を用いて傾向スコアを作成し、inverse probability of treatment weighting(IPTW)で調整しています。主要アウトカムはRSV関連下気道感染(細気管支炎など)による入院で、ICD-10のRSV特異的コード(検査確定を反映しやすいコード)で定義しています。副次アウトカムはPICU入室、高依存度病棟入室、人工呼吸、酸素投与などの重症指標です。追跡は出生入院の退院日を起点に、RSV入院、死亡、または2025年2月28日までです。
研究の結果
マッチング後に各群21,280人、計42,560人が解析対象となりました。追跡期間中央値は84日でした。主要アウトカムのRSV関連下気道感染入院は、ニルセビマブ群212件(1.0%)、母体RSVpreFワクチン群269件(1.3%)で、ニルセビマブ群のリスクが低く、調整後ハザード比は0.74(95%CI 0.61–0.88)でした。
重症アウトカムも同様にニルセビマブ群で低く、PICU入室は調整後ハザード比0.58、人工呼吸0.57、酸素投与0.56でした。サブグループ解析や複数の感度解析でも概ね一貫していました。一方で、追跡開始後0〜7日ではニルセビマブ群の相対リスクが高い所見(調整後ハザード比2.94)も示されており、起点設定や潜伏期間、早期発症例の影響などの解釈が必要です。院内死亡は両群ともありませんでした。
結論
フランスの初回実装シーズン(2024-2025年)における全国データの比較では、母体RSVpreFワクチンよりも、出生後早期にニルセビマブを投与された新生児の方が、RSV関連入院および重症アウトカムのリスクが低い関連を示しました。ただし観察研究であり、残余交絡や、シーズン内での対象の偏り、追跡期間が単一シーズンである点などの限界があるため、他シーズン・他国での再検証が必要、という位置づけです。
考察と感想
本研究は、同一シーズン・同一国の全国データを用いて、母体RSVpreFワクチンとニルセビマブを正面から比較した点に大きな価値があります。実装初年度という条件下でも、マッチングとIPTWを併用して比較可能性を高め、主要アウトカムだけでなくPICU入室や呼吸補助といった重症指標まで一貫した差を示した点は、実臨床の意思決定に強い示唆を与えます。とくに出生後30日以降で差が明確になる所見は、母体由来抗体の量や持続、投与時期への依存性という生物学的妥当性とも整合的に感じられます。
一方で、観察研究である以上、家族の受療行動や生活環境など未測定交絡の可能性は残りますし、RSVpreFワクチンが妊娠後期という限られた窓でのみ使用された初年度の状況が、結果に影響している可能性も考慮すべきです。0〜7日でニルセビマブ群の相対リスクが高く見える点は、フォローアップ起点や潜伏期間の扱いを再考させる重要な示唆でもあります。総じて、本研究は「どちらか一方が常に優れている」という単純な結論ではなく、実装環境、タイミング、医療提供体制によって最適解が変わり得ることを示しており、今後の政策設計や費用対効果評価の基盤となる論文だと感じました。
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