今回は、新型コロナウイルスに感染した妊婦・新生児の症例集積を紹介させていただきます。
以前、ランセットに掲載された新生児・母親の9ペアの症例集積の続編のようです。
今回は、この新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した妊婦から出生した新生児の9例のうち6例の血清を利用した症例集積になります。
IgG抗体 = 胎盤を通過する
IgM抗体 = 胎盤を通過しない
という性質を知っておくと良いでしょう。IgMは分子量が大きいので、胎盤を通過しないと考えられています。
(図はこちらより拝借)
- 新型コロナウイルス陽性の妊婦から生まれた新生児6例の追加調査
- 臍帯血、母乳、羊水、新生児の咽頭からはPCR陰性
- 新生児のIgMとIgGが高値であった
- 垂直感染が示唆されるが、疑問点もあり、さらなる調査が必要
妊婦の感染例の症例集積について
新しい妊婦・新生児の感染例の症例集積を簡単にまとめようと思います。
概要
新型コロナウイルスに感染した妊婦から出生した9例の新生児のうち、6例において、新型コロナウイルスのIgM、IgG抗体を母と新生児から採取。IgMとIgG抗体は、メーカー側の感度。特異度は以下の通りであったとのこと:
IgM | IgG | |
感度 | 88.2% | 97.8% |
特異度 | 99.0% | 97.9% |
それぞれの抗体は、出生時に母と新生児の血液から採取。
もともと、上述の6例はPCR検査がされており、新生児は臍帯血、羊水、母乳、咽頭の検査では全て陰性であった。
結果
抗体検査の結果は以下の通りでした:
IgM
症例 | 新生児 | 母親 |
1 | 39.6 | 83.97 |
2 | 16.25 | 236.6 |
3 | 3.79 | 5.58 |
4 | 1.9 | 33.26 |
5 | 0.96 | 15.61 |
6 | 0.16 | 1.39 |
(> 10がカットオフ)
症例1と2のIgMが高価となっています。
IgMは胎盤を通過しない性質があるので、新生児が自ら産生したことになります。
IgG
IgGは以下の通りでした:
新生児 | 母親 | |
1 | 125.5 | 136.72 |
2 | 113.91 | 117.37 |
3 | 75.49 | 120.63 |
4 | 73.19 | 103.46 |
5 | 51.38 | 70.05 |
6 | 7.25 | 8.12 |
IgGは胎盤を通過します。母のIgGが高いほど、子供のIgGも高い傾向にありますね。
感想と考察
出生時に採取されたIgMが上昇しているのを見ると、垂直感染の可能性が示唆されます。
ただ、臍帯血・羊水のPCRは陰性であり、確証が持てるわけではなさそうです。
著者らも垂直感染以外にも、胎盤の損傷の可能性を指摘しています。IgMが高かった新生児の母の胎盤は、重さや病理的な所見でも損傷が見られており、これで本来は通過しないはずのIgMが通過してしまった可能性もあるようです。
いずれにしても、もう少し規模の大きなデータが必要そうです。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が騒動になって1ヶ月以上になりますが、小児に関しては、徐々に情報が増えてきた印象です。現時点で分かっていることをまとめると、以下の通りです:
まとめ
今回は、
- 新型コロナウイルスに感染した妊婦と新生児9例
についてアップデートさせていただきました。
引き続き、新しい情報、過去の文献を読み込んだら、報告させてもらおうと思います。
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