こちらの研究は、スイスにおいて新型コロナウイルスの家族内症例を追跡した研究になります。
都市閉鎖や学校閉鎖が行われた場合は、成人から小児への感染が多い印象ですが、スイスにおいてはどうでしょうか?
- スイスにおける新型コロナウイルス感染の家族内集積の研究
- 成人から小児へと感染が疑われる例が多い
- 家族内感染した小児は、無症状または軽症例がほとんど
Pediatricsからの報告です
研究の概要
背景・目的:
新型コロナウイルス感染症 (COVID‐19) は大流行しているが、重症度と症例数という点では、子供は成人より影響されておらず、症例の<2%を占めるのみである。
他のウイルス性呼吸器感染症とは異なり、小児は重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2 (SARS-CoV-2) 伝播の主要な媒介者ではないようである。
例えば、ほとんどの小児症例は家族性クラスター内に記載されており、小児から小児または小児から成人への伝播の記録はほとんどない。
本研究の目的は、著者らの市において、新型コロナウイルスの最初の小児症例40例の臨床症状とそれらの家族クラスターの動態を記述することであった。
方法
ジュネーブ大学病院 (スイス)のサーベイランスネットワークを使用して、2020年3月10日から4月10日までの、<16歳のSARS-CoV-2感染患者を同定した。
このネットワークは、RT-PCRによりSARS-CoV-2の検査を受けた鼻咽頭検体の結果を小児感染症専門家に通知している。
カルテの記載をレビューして臨床データを検索し、さらに患者と家庭内接触者を追跡調査のために呼び出し、調査した。
家庭内接触者は、スイス連邦公衆衛生局の定義によると、「発熱または急性呼吸器症状があれば感染を疑われる」とみなされた。
結果
合計4310人の新型コロナウイルス(SARS‐CoV‐2患者)のうち、 40人は<16歳 (0.9%) であった。
電話追跡が不可能であった患者1名は、臨床症状および経過を評価できないため、除外した。世帯の追跡期間の中央値は18日(4分位範囲 [IQR] :14–28)であった。
症状や経過
40人の小児のうち、29人 (74%) の患者には既往歴がなかった。
最も頻繁に報告された既往症は
- 喘息 (10%)
- 糖尿病 (8%)
- 肥満 (5%)
- 早産 (5%)
- 高血圧 (3%)
であった。
40名のうち、7名の患者 (18%) は、中央値3日(IQR:2~4)の期間、病棟に入院した。
入院の理由は、非低酸素性ウイルス性肺炎のサーベイランス(n=2)、原因不明の発熱(n=2)、明らかな生命を脅かす事象(n=1)、敗血症(n=1)であった。
両親共に重度の新型コロナウイルス感染症を生じた小児が1名が入院した。
ICU入院またはSARS-CoV-2特異的治療を必要とした患者はいなかった。
他の32例は外来で管理した。
全ての患者は診断後7日までに症状は完全に寛解した。
家族内の集積
家族クラスター評価において、1世帯あたりの家族の構成員は中央値で4名であった(IQR:3~4)。
研究対象となった家族内接触者の111人において、
- 小児 (n=39)
- 母親 (n=39)
- 父親(n=32)
- 小児の同胞(n=23)
- 成人の同胞(n=8)
- 祖父母(n=7)
が続いた。
成人の接触者は、79% (31/39) の症例で、研究の対象となった小児より先に新型コロナウイルスが確認または疑いがもたれた。
8% (3/39) の症例でのみ、子供は他の家族内接触者より前に症状を発症した。
成人の接触者の85% (75/88) がいずれかの時点で症状を発症した。一方で、小児の家族内感染では、症状が出たのは43% (10/23) のみであった。
また、母親の92% (36/39) が症状を発症したが、父親では75% (24/32) であった。
結論
世帯内の伝播の動態をよりよく理解するためには、疑わしい症例の診断的スクリーニングの拡大と徹底的な接触者追跡が必要である。
感想と考察
家族内感染の動態を捉えようと努力した研究ですね。
著者らも本文で述べていますが、追跡不能例は少しばかりいたのと、後ろ向きに調査を行なったのもあり、思い出しバイアス(recall bias)が懸念されるということでした。
家族内感染に関しては、成人→小児がメインのようで、この研究では小児→成人の経路は認めなかったようです。
まとめ
スイスで行われた新型コロナウイルスの家族内発生例の追跡です。
成人から小児へ感染する例が多く、小児は感染してもあまり症状を示さないことが多かったようです。
第2回のアンケートが行われているようですね(〜7/26まで)↓↓
「コロナ×こどもアンケ-ト」その2
コロナ禍におけるこどもたちの生活と健康現状の調査、第2回。
下記に該当する方、ご協力をお願いします。① 7~17歳のお子さま
② 0~17歳のお子さまのおうちの方たくさんの方の声が集まると、社会を動かす大きな力になります。https://t.co/5dmmrB97h0 pic.twitter.com/ApdgprkGTK
— 国立成育医療研究センター (@ncchd_pr) June 15, 2020
(2024/12/08 17:37:02時点 Amazon調べ-詳細)
Dr. KIDが執筆した医学書:
小児のかぜ薬のエビデンス
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/12/08 01:43:13時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
Noteもやっています