抗菌薬

小児の急性中耳炎と抗菌薬について② [治療後の急性中耳炎の経過]

前回、小児の急性中耳炎において、抗菌薬がどのくらい有効なのかを検討したシステマティックレビューとメタ解析の一部をご紹介してきました。

小児の急性中耳炎と抗菌薬について①急性中耳炎は自然軽快することがあり、必ずしも抗菌薬でないことがあります。例えば、アメリカ小児科学会によると、抗菌薬の適応は以下のように推...

こちらの記事を要約すると、以下の通りになります:

急性中耳炎に対して抗菌薬は

  •  2歳未満
  •  両側性
  •  耳漏がある

場合により有効であるのが分かります。

参考文献

Rovers  M, et al.Antibiotics for acute otitis media: a meta-analysis with individual patient data. Lancet. 2006;368:1429-35.

今回は少し視点をずらして、小児の中耳炎で抗菌薬があった場合、なかった場合の自然経過をみていきましょう。

日別にみた中耳炎の経過

日別に急性中耳炎の症状のある小児の割合を比較しています。

2歳未満+両側性の場合

2歳未満で両側性の中耳炎の場合、抗菌薬を使用したグループのほうが症状の持続期間が短くなる傾向にあります。

2歳以上+片側性の場合

耳漏のある場合の抗菌薬の有効性を評価しています。

抗菌薬を投与したほうが、症状がはやく軽快する傾向にあるのがわかります。

耳漏のない場合

こちらは耳漏のない場合のデータです。

確かに抗菌薬を使用した場合のほうが症状は軽快する傾向にありますが、プラセボとの差はわずかです。

アメリカ小児科学会によると、抗菌薬の適応を参照すると、これらのエビデンスに基づいているのが分かると思います。

 

プラセボでも中耳炎が治っているという事実

プラセボ(つまり抗菌薬無し)でも急性中耳炎が自然に軽快している例があるという点です。例えば、上の図のプラセボをプロットしなおしてみると以下のようになります。

必ずしも広域抗菌薬は必要でないという事実

もう1つは使用されている抗菌薬です。このメタ解析の対象となった6つの研究をみてみましょう。

筆頭著者

抗菌薬

Appelman1

1991

オランダ

アモキシシリン・クラブラン酸

Burke2

1991

イギリス

アモキシシリン

Damoiseaux3

2000

オランダ

アモキシシリン

Little4

2001

イギリス

アモキシシリン

Saux5

2005

カナダ

アモキシシリン

McCormick6

2005

アメリカ

アモキシシリン

ほとんどの研究がアモキシシリンを使用して治療に成功しています。
残念ながら日本の研究はなく、古めの研究が多いですが、広域抗菌薬は必ずしも必要ではないことがわかります。

日本では第3世代セフェムが多用されていますが、おそらくペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)や一部のインフルエンザ菌(BLNAR)、モラキセラあたりの感染症が懸念されてのことと思います。
[ペニシリン高度耐性肺炎球菌(PRSP)は日本の小児では少なく、中等度耐性菌(PISP)であればペニシリンを高用量に使用すれば治療可能です]

 

参考文献

 

  1. Appelman CL, Claessen JQ, Touw-Otten FW, Hordijk GJ, de Melker RA. Co-amoxiclav in recurrent acute otitis media: placebo controlled study. BMJ. 1991;303(6815):1450-1452. doi:10.1136/bmj.303.6815.1450
  2. Burke P, Bain J, Robinson D, Dunleavey J. Acute red ear in children: controlled trial of non-antibiotic treatment in general practice. BMJ. 1991;303(6802):558-562. doi:10.1136/bmj.303.6802.558
  3. Damoiseaux RA, van Balen FA, Hoes AW, Verheij TJ, de Melker RA. Primary care based randomised, double blind trial of amoxicillin versus placebo for acute otitis media in children aged under 2 years. BMJ. 2000;320(7231):350-354. doi:10.1136/bmj.320.7231.350
  4. Little P, Gould C, Williamson I, Moore M, Warner G, Dunleavey J. Pragmatic randomised controlled trial of two prescribing strategies for childhood acute otitis media. BMJ. 2001;322(7282):336-342. doi:10.1136/bmj.322.7282.336
  5. Le Saux N, Gaboury I, Baird M, et al. A randomized, double-blind, placebo-controlled noninferiority trial of amoxicillin for clinically diagnosed acute otitis media in children 6 months to 5 years of age. Cmaj. 2005;172(3):335-341. doi:10.1503/cmaj.1040771
  6. McCormick DP, Chonmaitree T, Pittman C, et al. Nonsevere acute otitis media: a clinical trial comparing outcomes of watchful waiting versus immediate antibiotic treatment. Pediatrics. 2005;115(6):1455-1465. doi:10.1542/peds.2004-1665

 

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Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。