これまで、乳幼児の急性細気管支炎とロイコトリエン拮抗薬(主にモンテルカスト(キプレス®︎やシングレア®︎))について解説してきました。
急性細気管支炎はRSウイルスなどをはじめとしたウイルスに感染することで生じ得ます。詳しくはこちらをご参照ください↓
今回は、このテーマですでにコクラン共同計画から、システマティックレビューとメタ解析の結果が出版されているので、そちらをご紹介させていただければと思います。
対象となった研究(RCT)
最終的に5つの研究が対象となりました。いずれも私のブログでご紹介しています。
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研究結果と考察
ロイコトリエン拮抗薬が、乳幼児の急性細気管支炎において
- 入院日数を短縮させるか
- 臨床スコアを改善させるか
- 退院後の症状改善に役立つか
といった点を検討しています。
ロイコトリエン拮抗薬は入院日数を短縮させるか?
モンテルカストを使用すると入院日数は1日ほどやや短くなるかもしれませんが、95%信頼区間は広く不正確な推定です。
ここの研究をみても、ほぼ変わらなかったものと(Amirav)と2日ほど短縮したもの(Zedan)があり、このHeterogeneity(異質性)の強い2つのみで結論を未地引出すのは難しいように思います。
ロイコトリエン拮抗薬は臨床スコアを短縮させるか?
ロイコトリエン vs. プラセボを使用して、入院患者の臨床スコアを比較しています。
2日目
2日目の臨床スコアは以下の通りでした:
2日目の臨床スコアは全体としては0.6点ほど低いのですが、こちらも不正確な推定ですね。統計学的な有意差もありませんし、Heterogeneityが強いです。
3日目
3日目の臨床スコアは以下の通りでした。
臨床スコアの差はほぼありませんが、やはりheterogeneityが強い点が気になります。
症状の無い日の割合について(Bisgardら)
症状の無い日の割合も比較しています。
例えば、Bisgardらの行なった研究結果は以下の通りです。症状のなかった日の割合(%)を4週、24週で比較しています。
4週まで
P | M4 | M8 | |
症状のない日 | 37% (30.7) |
38.6% (30.4) |
38.5% (29.9) |
(P = プラセボ; M4 = モンテルカスト 4 mg; M8 = モンテルカスト 8 mg)
3つのグループでは症状のない日の割合はほぼ同じでした。
12週まで
P | M4 | M8 | |
症状のない日 | 58.2% (27.8) |
60.8% (27.1) |
60.7% (27.2) |
悪化あり | 33.3% | 31.4% | 31.7% |
全身ステロイド使用 | 19.2% | 22.5% | 19.4% |
(P = プラセボ; M4 = モンテルカスト 4 mg; M8 = モンテルカスト 8 mg)
3つのグループでは症状のない日の割合はほぼ同じでした。
悪化した人の割合や、全身ステロイドが必要だった人の割合も変わりませんでした。
症状の無い日について(Proesmansら)
Proesmansらも類似の研究をしています。症状のなかった日を計算しています。
RSV細気管支炎後の症状消失期間(昼&夜)の中央値を比較しています。
- モンテルカスト:48.5日(33〜66)
- プラセボ:57日(29〜71日)
でした。プラセボのほうが症状のない期間はやや長くよさそうな印象ですが、統計学的な有意差はありませんでした。
夜だけの症状にすると、
- モンテルカスト:63.5日(51〜68.5)
- プラセボ:73日(51〜83日)
でした。
これら2つの研究は、異質性が強いためメタ解析は行われませんでした。
喘鳴の再発率について
急性細気管支炎後には喘鳴が再発しやすいことがありますが、これをロイコトリエン拮抗薬を内服することで予防できるかを検討した研究があります。
Kimらの行なった研究は以下の通りでした。
(黒 = モンテルカスト;灰色 = プラセボ)
確かにモンテルカストを使用したほうが、やや喘鳴の再発は少ない印象ですが、1年を通して0.5〜1回程度の喘鳴の再発予防を目的として、ロイコトリエン拮抗薬を長期的に内服すべきかは、きちんと考えた方が良いでしょう。
Proesmansらも類似の研究をして、1年後のフォローで喘鳴などの再燃をみています。
- モンテルカスト:41人
- プラセボ:54人
でした。プラセボのほうが、やや成績は悪そうで、IRRを計算すると0.683 (95%CI, 0.44〜1.04)となり、モンテルカストを使用した方が再発のrateは下がっています。
その他の指標もtableにしてみましょう。
M N = 31 |
P N = 27 |
|
1回以上の増悪 | 20 | 21 |
増悪までの期間 | 25日 | 6日 |
再受診 | 41 | 54 |
3回以上の受診 | 31 | 27 |
吸入ステロイド | 5 | 3 |
全身ステロイド | 0 | 0 |
副作用について
薬の副作用もいくつか評価していて、代表的なものは以下です(Bisgardら)
P | M4 | M8 | |
下痢 | 12.9% | 19.7% | 15% |
発熱 | 27.4% | 28.3% | 24.8% |
下痢はモンテルカストを使用したほうが、やや多い印象をうけます。
実際にモンテルカスト vs. プラセボでRisk Ratio(リスク比)で表してみましょう。
P N = 318 |
M4 N = 315 |
M8 N = 319 |
|
下痢 | 41 (12.9%) |
62 (19.7%) |
48 (15%) |
RR (95%CI) |
Ref. | 1.52 (1.06〜2.19) |
1.17 (0.79〜1.72) |
RR (95%CI) |
Ref. | 1.34 (0.97〜1.88) |
モンテルカストを使用したほうが、下痢のリスクは1.3倍ほど上昇しそうな印象ですね。
感想と考察
5つの研究がシステマティック・レビューとメタ解析の対象になりましたが、なかなか結論づけるのは難しくて、もどかしいですね。著者らの記載にも同じような印象をうけました。
解析結果が統合できない理由はいくつかありますが、アウトカムが微妙に異なったり、アウトカムをとるタイミングが違ったり、患者層が大きくことなったりなど、いろんな理由があります。
成人と比較して、小児のRCTの数は基本的に少なく、その分、1つ1つの研究結果が重要になってきます。このあたりに、小児医療の科学的根拠や疫学の問題点が集約されている印象です。
まとめ
今回は、システマティック・レビューとメタ解析で、ロイコトリエン拮抗薬が小児の急性細気管支炎やその後の喘鳴の再発予防に有効化を検討しています。結果としては、ロイコトリエン拮抗薬は、
- 入院日数への影響は少なく
- 臨床的な症状の改善効果はなさそう
- 1年間で0.5〜1回程度の再発の現象
- 下痢のリスクが1.3倍程度
などが示唆されています。
研究数が少ない点、異質性が強い点にも留意しておく必要があると思います。
(異質性の解説は以下)
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