ロイコトリエン拮抗薬

モンテルカストは乳幼児の喘鳴に有効か? イギリス&スコットランド編

モンテルカスト(キプレス®︎;シングレア®︎)は喘息の長期管理薬としてのエビデンスは多数ありますが、乳幼児が感染の時に怒る一過性の喘鳴に対する有効性は議論が分かれています。

ひょっとしたら、「風邪をひいてゼコゼコしているので、こちらの薬を飲んでおきましょう」と言われ、モンテルカスト(キプレス®︎;シングレア®︎)やプランルカスト(オノン®︎)を処方された経験のある保護者も多いかもしれません。
乳幼児は空気の通り道が細いのもあり、風邪をひいた時にゼーゼーしやすいことがありますし、あまり確実な治療方法がないのが現状です。

今回の研究では、モンテルカストが感染症などを契機にした乳幼児の一過性の喘鳴に有効かを検討した研究をご紹介します。

研究の方法

今回の研究は、2010〜2013年にイギリスとスコットランドの62施設で行われたランダム化比較試験です。

対象となったのは、

  •  10ヶ月〜5歳
  •  2回以上の喘鳴の病歴がある
  •  慢性疾患なし

などを満たす小児を、5/5 or 5/x+x/x ALOX5 promoter genotypeで層別化をして、

  •  モンテルカスト
  •  プラセボ

を投与しています。12ヶ月間の追跡期間中に、風邪や喘鳴の症状があった時のみにモンテルカストを内服するように指示しています。

Dr.KID
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「風邪をひいてゼーゼーしそうだから」「風邪でゼーゼーしてきたから」内服しましょうという日常臨床に沿った研究ですね。

ALOX5 promoter genotypeは、アラキドン酸カスケードのpolymorphismでして、ロイコトリエンの生合成に関わる酵素を制御しているようです。遺伝子によって

  1.  5/5
  2.  5/x
  3.  x/x

と分類されています。このサブタイプによってモンテルカストなどロイコトリエン拮抗薬への反応性が異なるとも成人では報告されているようです。

この研究では 1) 5/5 2) 5/x + x/xの2つのサブグループに分けてからRCTをしています。こうすることで、それぞれのサブグループでのサンプル数を確実に保つことができます。

Dr.KID
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層別化して、それぞれのサブグループでRCTをすることを”Blocked RCT”と言います。

アウトカムは、

  •  喘鳴による再受診/時間外受診
  •  ステロイドの必要性
  •  喘鳴の持続時間

 

研究結果と考察

最終的に1358人が参加し、モンテルカストは669人、プラセボは677人が割り当てられました。ドロップアウトは1%ほどです。患者背景としては、

  •  身長 90cm
  •  体重 14kg
  •  2歳後半
  •  食物アレルギー15〜20%
  •  母の喘息歴:35%
  • くらいでした。

時間外/予約外受診について

予約以外で医療機関に緊急で受診する必要があった回数を比較しています。

  M P aIRR
全体 2.0
(2.6)
2.3
(2.7)
0.88
(0.77-1.01)
5/5のみ 2.0
(2.7)
2.4
(3.0)
0.80
(0.68-0.95)
5/x + x/x 2.0
(2.5)
2.0
(2.3)
1.03
(0.83-1.29)

全体としては、予約外受診はモンテルカストを使用したグループの方が12%ほど少ない傾向にありました。この傾向は、5/5のサブグループの傾向を反映しているだけで、5/xやx/xのグループでは有効性はなさそうな印象です。

Dr.KID
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遺伝的な違いが治療効果を修飾していますね。これをeffect measure modificationと言います。

その他のアウトカム

その他のアウトカムは以下の通りです。

  M P Effect estimate
治療〜予約外受診の時間 147 130 HR 0.89
(0.78-1.02)
ステロイド使用 0.26
(0.7)
0.33
(0.9)
IRR 0.75
(0.58-0.98)
喘鳴の期間 2.7
(2.9)
2.6
(3.0)
IRR 1.02
(0.91-1.16)

全体としては、予約外受診のハザードを少し下げ、ステロイドの必要性も若干減っていますが、喘鳴の時間はあまり変わらない印象でした。

感想と考察

今回の研究では、ロイコトリエン拮抗薬であるモンテルカストは、乳幼児の感染を契機とした喘鳴の時に短期的に使用すると、一部のお子さん(ALOX5 promoter genotype: 5/5)では予約外受診の頻度を減らすけれども、そうでない方ではあまり効果がないのかもしれません。
つまり、ロイコトリエン拮抗薬は効きやすい体質の小児とそうでない小児がいて、前者に対して使用すれば有益かもしれないです。

このような現象を治療効果の修飾やeffect measure modificationと呼んでいます。
とある治療の有効性を評価した時に、全員に一様に有効であると考えてしまう医師も多いです。確かにそういう治療もたくさんあるとは思いますが、そうでない治療もあります。つまり、中にはとある集団には効いて、そうでない集団には効かないこともあるのです。

あらゆる研究で起こり得る現象で、これはランダム化をしたからといって解決される問題ではありません。有効性や無効なのがRCTなどで確認された場合、どのような集団で行われたのかをよくよく考えることで、区別がつくことがあります。

今後の問題としては「効きやすい小児」をどのように発見するかですね。実臨床では全員に遺伝子検査をするのは現状では難しいですし、この予測因子を臨床情報からあげられることができると大きいと感じています。

まとめ

ロイコトリエン拮抗薬であるモンテルカストは、乳幼児の感染を契機とした喘鳴の時に短期的に使用すると、一部のお子さん(ALOX5 promoter genotype: 5/5)では予約外受診の頻度を減らすけれども、そうでない方ではあまり効果がないのかもしれません。

 

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。