科学的根拠のある子育て・育児

インフルエンザワクチンは乳幼児に有効か? [日本編]

  •  インフルエンザワクチンは乳幼児に効かないから打っても意味がない

と説明している医療者もいるようです。
確かに、この趣旨の論文が発表されたことがあり、今回はそちらをトピックにしてみようと思います。

日本のこういった古い論文を読む際に気をつけなければいけないのは、

  •  ワクチンの投与量は現代の推奨と同じか?
  •  サンプル数は十分に確保されていたのか?

といった点を考慮しなければいけません。今回の論文は、どちらもこの2点に問題がありそうな印象でした。

ポイント

  •  1999/2000に日本で行われたコホート研究
  •  インフルエンザワクチンの予防効果は、0-7歳において示唆されている
  •  ただし、効果推定は不正確なため、追加で検証は必要
  •  少なくとも有効性を否定するような内容ではない
マミー
マミー
今と昔では、インフルエンザワクチンの投与量が違うのですか?

Dr.KID
Dr.KID
昔は乳幼児に0.1 mlしか使用していませんでした。今は、0.25 mlを使用しています。

研究の方法

対象となったのは、

  •    7歳未満の小児
  •    1999/2000のインフルエンザシーズン
  •    慢性疾患なし

に、研究が行われた病院の外来受診者となります。

ワクチンについて

ワクチンは、

  •  接種あり:
  •  なし:コントロール(年齢をマッチさせた)

のいずれかをランダムに投与しています。

ワクチンは2週間以上の間隔を空けて2回接種しています。各回の投与量は以下の通りでした:

年齢
< 1歳 0.1 ml
1-6歳 0.2 ml
> 6歳 0.3 ml

現代より少なめの量ですね…

アウトカムについて

アウトカムに関しては、

  •   インフルエンザAへの感染

を見ています。

Dr.KID
Dr.KID
マッチングを使用したコホート研究ですね

研究結果と考察

最終的にワクチングループが86人、コントロールが94人集まりました。

 年齢別の予防効果

インフルエンザワクチンの年齢別の予防効果をみてみましょう:

年齢 ワクチン コントロール
0-1 2/8
(25%)
2/5
(40%)
2 2/18
(11.1%)
2/25
(8%)
3 0/19
(0)
5/19
(26.3%)
4 0/13
(0)
2/11
(18.2%)
5 0/13
(0)
1/18
(5.5%)
6 1/7
(14.3%)
2/10
(20%)
7 0/9
(0)
2/6
(33%)
全体 5/86
(5.8%)
16/94
(17%)

%を比較してみると、ワクチン接種グループの方が低そうな印象ですね。分かりづらいので、risk differenceにしてみましょう。今回は0が多いので、risk ratioではありません。

年齢 RD (95%CI)  
0-1 -15% (-67, 37)  
2 3% (-15, 21)  
3 -26% (-46, -7)  
4 -18% (-41, 5)  
5 -6% (-16, 5)  
6 -6% (-42, 30)  
7 -33% (-71, 4)  
全体 -11% (-20, -2)  

2歳代以外は、リスクが少なからず減っているのが分かります。
サンプル数は少ないので、かなり不正確な推定ではありますが…

メタ解析風に解析をし直して、データを提示してみましょう:

 感想と考察

日本の20年ほど前の研究になりますが、サンプル数は少ないものの、全体としてインフルエンザワクチンの予防効果を認めています。いくつか問題点がありますので、ツラツラと書いていきます。

1つ目はワクチン接種量です。現代と投与量が異なり、少なめですので、それだけ予防効果は認めづらい可能性があります。これに関しては、時代によって異なるので仕方ない面があると思います。

2つ目は、サンプル数の少なさです。全体で80人ずつワクチンありとコントロールでいますが、年齢に層別化した場合に、パワー不足なのは明らかです。上のメタ解析風の結果を見ても、95%CIのエラーバーが横に大きく広がっています。

3つ目は、解析方法についてです。著者らはFisher’s exact testを使用していますが、マッチングを行った場合は、マッチングを考慮した解析方法を使用すべきです。RDやRRの推定値は、コホート研究の場合は変わりませんが、分散の推定が変わってしまうためです。

4つ目は、著者らの結論です:

2-6歳としていした意味が正直わからないです。上のForest plotを見ていただければ、2歳を除いて、予防効果は示唆されている内容で、問題なのはサンプル数が少なく、95%CIが広く、推定値が不正確である点です。

Dr.KID
Dr.KID
統計学的な有意差がない–>予防効果なし、と判断しないように!詳しくは以下の記事をみてください

P値とダイコトマニアについて 年に30-50本ほどの医学英語論文を査読しており、様々な研究者の論文を査読しています。また、私自身も論文を年に5〜10本ほど投稿して...

まとめ

いくつか問題点はありますが、日本の20年ほど前のコホート研究では、0-7歳において、ほぼ全ての年齢層でインフルエンザワクチンの予防効果が示唆された結果が出ています。ただ、追加検証が必要なのは確かです。

マミー
マミー
患者さんを集めるのが大変だったのでしょうか?

Dr.KID
Dr.KID
単施設の研究などでは、サンプル数を確保できいことはよくあるので、仕方ない側面もあると思います…

まとめ

今回の研究は、

  •  1999/2000に日本で行われたコホート研究
  •  インフルエンザワクチンの予防効果は、0-7歳において示唆されている
  •  ただし、効果推定は不正確なため、追加で検証は必要
  •  少なくとも有効性を否定するような内容ではない

 

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Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。