小児科

【論文】生後2年での体重増加は、成人期の肺機能に影響しているかもしれない

今回はこちらの論文をピックアップしました。

www.ncbi.nlm.nih.gov

出生後2年間の体重増加が、成人期の肺機能にどのように影響しているか、確認をした論文です。

  • 『え?なんで出生後の体重増加と成人の肺機能?』

と疑問に思われた方がいるかもしれません。

 生後2〜3年は体が非常に大きくなる期間で、ごどもの成長・発達には非常に重要

この期間に、肺胞が増え続け、肺が徐々に大きくなっていくため、肺にとっての「Critical Period(臨界期)」といえます。

こどもの成長の指標として重要な指標は「体重増加」ですから、この2つをリンクさせています。

つまり、「しっかりと栄養をとり、体が大きくなって体重が増えれば、そうでないこどもと比較して、将来の肺機能が高いのではないか?」と仮説をたてています。

 

研究の方法

イギリス、スコットランド、ウェールズにおいて1946年から行われているコホート研究のデータを使用しています。

このコホートには16695人が含まれ、産まれた直後から患者データを追跡しています。

このうち、労働者階級・自営業の家庭からデータを抽出し、5362人が対象となりました。(男 2547人 vs 女 2815人)

体重増加について

  • 出生時の体重
  • 2歳時の体重

を計測し、両者の差を計算し、2年での「体重増加」としています。

アウトカムについて

肺機能の指標として、1秒率(FEV)と肺活量(FVC)をみています。

  • 1989年(43歳)
  • 1999年(53歳)
  • 2006-2010年(60-64歳)

の3ポイントで肺機能を調べています。

その他の変数として

  • 性別
  • 2歳までの下気道感染(肺炎・気管支炎)
  • 4歳までの社会階級
  • 成人での教育レベル
  • 喫煙
  • 喘息

などを聴取して、統計学的なモデルにて対処されています。

研究の結果と考察

生後2年の体重増加と成人期の肺機能の関連性は男女で異なるものでした。

男性の結果

男性の肺機能をみていきましょう。1秒率は、生後2年での体重増加が1kg増えるたびに

  • 43歳: + 20 ml(-7.2〜47.1)
  • 53歳: – 3.6 ml (-30〜23.9)
  • 60歳:+ 30.9 ml (-2.1〜64.6)

増えるという結果でした。すべて95%信頼区間が0を跨いでいるため、統計学的な有意差はありません。

また、肺活量については、体重増加1kgあたりで

  • 43歳: + 2.5 ml(-35.4〜40.4)
  • 53歳: + 24.5 ml (-9.8〜58.8)
  • 60歳: +34.7 ml (-11.8〜81.3)

増えるという結果でした。こちらも統計学的な有意差はありません。

女性の結果

次に女性の1秒率をみていきましょう。こちらは

  • 43歳: + 61.9 ml(11.4〜112.4)
  • 53歳: +43.9 ml (-2.8〜90.6)
  • 60歳:+ 25.9 ml (-78〜+79.8)

増えるという結果でした。43歳時点でのみ、出生後2年の体重増加が影響しているという結果でした。

また、肺活量は

  • 43歳: + 66.3 ml(0.5〜132.1)
  • 53歳: + 25.7 ml (-30〜82)
  • 60歳: – 15 ml (-82〜+52)

増えるという結果でした。こちらも、95%信頼区間が0を跨がない、つまり統計学的な有意差があるのは43歳時点のみでした。

 

まとめると…

これまでの結果をまとめると、生後2年間での体重増加は

  • 男性の肺機能には関連なく
  • 女性の43歳時点での肺機能のみに関連する

という結果でした。果たして本当でしょうか。この論文の欠陥について少し説明しようと思います。

 

交絡因子(Confounder)と媒介因子(mediator)

著者らは方法に掲載されている因子をすべて「交絡因子」として統計学的なモデルに組み込んでいますが、私はほとんどすべての変数は交絡因子ではなく、媒介因子と考えています。

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上の図をみていただければ分かりやすいと思うのですが、交絡因子であるためには「体重増加」よりも時系列として前に起こっていなければなりません。

ですので、性別や乳児期の感染は交絡因子でもよいでしょう。

一方で、その後の教育レベルや喫煙、喘息などは、2歳より後に起こったイベントであるため、この場合は媒介因子(Intermediate variable)となります。

媒介因子を統計モデルに入れた場合、体重増加から成人での肺活量の経路をブロックしてしまうことがあります。

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こちらはTableの一部ですが、M0–>M1–>M2の順に、変数を多く入れています。

媒介因子をモデルに組み込めば組み込むほど、体重増加の影響が小さくなっているのが分かります。

どのような効果を見たいかによって解析手法は異なってきますが、今回のケースでいうと、

  • Causal Mediation Analysis(媒介分析)
  • Inverse probability weighting (IP weighting)

などで、この媒介因子をうまく対処しないといけなかったでしょう。

 

まとめ

今回の研究では、女性においてのみ生後2年の体重変化が成人期の肺機能に影響していました。

しかし、統計学的な対処に難があり、別の解析方法をとるべきと考えています。

今後、同様の研究結果が出てくるよいなと考えています。

 

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このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。
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