疫学

電磁場が高い地域に住むと白血病のリスクが上がるかもしれない

今回はこちらの論文をピックアップしました。

 

研究の背景について

白血病にも様々なタイプがありますが、ALL(急性リンパ性白血病)は小児の白血病で最も多いです。

ALLという白血病の危険因子はいくつか報告されており、

  • ラドン
  • ベンゼン
  • 殺虫剤
  • 放射線
  • 電磁場

あたりが有名どころです。

電磁場とALL(急性リンパ性白血病)の関連性を示した研究は多数ありますが、結果がバラバラであり、今回、メタ解析が行われています。

研究の方法について

  • PubMed
  • ProQuest
  • Web of Science
  • Medline

などを使用し、1997年 1月〜2013年 7月までに発表された論文を検索しています。

  • ALLの患者をケース(症例)
  • 健常者をコントロール

として行われた症例対照研究(ケース・コントロールスタディー)を抽出し、電磁場の量は

  • < 0.1 μT
  • 0.1〜0.2 μT
  • 0.2〜0.4 μT
  • > 0.4 μT

と分類されています。

研究の結果と考察

9つの研究が抽出され

  • 11,699人のケース(白血病(ALL)罹患者)
  • 13,194人のコントロール

が9つの研究から抽出されました。

< 0.1 μTを基準にした場合

電磁波の量< 0.1 μTを reference(基準)にすると、0.4 μT 以上の電磁波は白血病のオッズが1.57倍上がりました(OR ,1.57; 95%CI, 1.03–2.40)。

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< 0.2 μTを基準にした場合

電磁波の量< 0.2 μTを reference(基準)にすると、0.2 μT 以上の電磁波は白血病のオッズが1.31倍上がりました(OR ,1.31; 95%CI, 1.06–1.61)。

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結果をForest Plotで図示する

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比較するグループが多かったので、著者らはForest Plotを提示していませんでしたが、メタ解析の結果は図示したほうが圧倒的に理解がしやすいです。

最初の < 0.1 μT vs. 0.4 > μT のみを、私が統計ソフトを用いて図示してみた結果が上の通りになります。

Ecologic Falacy(生態学的誤謬)について

今回の研究はケース・コントロールスタディーが中心であり、いくつか問題点があります。

代表的なものをあげると「Ecologic Falacy(生態学的誤謬)」です。

電磁場への曝露は、実際に個人から計測したわけではなく、居住地域から推定した値になります。

このような場合、

  • 環境から曝露したであろう推定値
  • 実際に本人が曝露した量

が著しく乖離していることがあります。

集団(居住地域)としての曝露と個人レベルでの曝露が異なれば、研究の妥当性は失われてしまいます。

よく横断研究(Cross-sectional study)や生態学的研究(Ecological study)で問題になりますが、症例対照研究(ケース・コントロールスタディー)でも当てはまることがあります。

 

まとめ

今回のメタ解析から電磁場の多い環境はALL(急性リンパ性白血病)のリスクが上昇するかもしれません。

しかし、生態学的誤謬(Ecologic falacy)が孕んでいるかもしれない点には留意すべきでしょう。

 

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ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。