ドクター・キッド

〜小児科医が解説する子供の健康・病気と単なる雑記のブログ〜

夜勤をすると乳ガン発症のリスクは上がるのか?

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今回はこちらの論文をピックアップしました。

www.ncbi.nlm.nih.gov

「夜勤は乳癌のリスクをあげるのか?」という疑問に答えてくれた論文です。

Google Analyticsによると、当ブログは20〜30代の女性が最も閲覧されており、おそらく。これから子育て、あるいは子育て中の方が多いと推測しています。

なかには(医療関係でなくとも)夜勤をこなしている方もいると思い、今回は小児医療とはあまり関係ありませんが、ピックアップさせていただきました。

研究の背景

▪️ 夜勤をすると乳癌のリスクが上がると考えられた理由

夜勤をすると夜間に光を浴びるため、サーガディアンリズム(概日リズム)が乱れます。

動物実験でもサーガディアンリズムが乱れると、発ガンのリスクが高まるという報告がありました。

そこから派生して、ヒトでも研究が行われ、夜勤の多いナースやCAで発ガンのリスクが上昇している、と報告されるようになり、夜勤が乳癌の危険因子の1つと言われ始めました。

詳細なメカニズムは省略しますが、概日リズムが乱れてメラトニンが減少すると、

  • 発ガン抑制経路と関連した遺伝子(Per2)が抑制される
  • 免疫能が落ち、NK細胞の活性が落ちる

ことから、乳癌になりやすくなるのでは?と言われています。

https://www.thelancet.com/journals/lanonc/article/PIIS1470-2045(07)70373-X/fulltext

▪️ 後ろ向きの観察研究の限界

疫学調査では後ろ向き研究(特にCase-Control Study)が盛んに行われますが、この研究手法には、様々な問題点があります。

その1つが想起バイアス(思い出しバイアス:recall bias)といわれるものです。例えば、夜勤と乳癌の関連性の研究をするとして、

  • 乳癌を発症した人
  • 同年代の乳癌のない人(ランダムに抽出)

から夜勤の有無や期間を質問します。

想定されるのは、乳癌を発症した人ほど、あれこれと原因を詮索しているため、夜勤の有無や期間は詳細に教えてくれます。

反面、乳癌のない人は、あまり気にしていないので、アンケートなどをしても乳癌患者の人ほど正確な答えが返ってこないことがあります。

これを「想起バイアス(Recall Bias)」といいます。

▪️ Recall Bias (想起バイアス)を対処するために

この想起バイアスを防ぐには、過去に遡る後ろ向き研究ではなく、未来を追う前向き研究が必要です。

今回は、イギリスで行われた3つの前向きコホート研究の結果と、過去の研究結果のメタ解析が同時に行われています。

研究の手法

研究の参加者は3つのコホート

  • the Million Women Study
  •  EPIC-Oxford
  • UK Biobank

からデータを集めています。

参加者に;

  • 定期的に夜勤をしているか
  • 夜勤時間、何年夜勤をしたか、開始した年齢

などを聞いています。

交絡因子として;

初経年齢・社会経済状況・子供の数・初産年齢・BMI・アルコール・喫煙・運動習慣・家族歴・経口避妊薬の使用

なども聴取しています。

研究の結果と考察

3つのコホートの参加者(と夜勤の割合)は

  • 522,246人(13.8%):Million Women Study
  • 22,599人 (14.5%):EPIC-Oxford
  • 251,045人(3.6%):UK Biobank

の通りでした。夜勤をしている方の半分前後は看護師さんです。

1月あたり平均して8.8回の夜勤で、1回あたり10時間働いていました。

▪️ 3つのコホートにおける夜勤と乳癌のリスクについて

これら3つのコホートにおいて、夜勤が乳癌のリスクを上昇させているか解析していて、結果は;

  • IRR = 1.00 (0.92〜1.08):Million Women Study
  • RR = 1.07(0.71〜1.62):EPIC-Oxford
  • RR = 0.78(0.61〜1.00):UK Biobank

*IRR = Incidence rate ration; RR = Risk ratio

▪️ メタ解析の結果

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メタ解析の結果はこちらになります。

  • RR = 0.99 (95%CI, 0.95〜1.03)

Risk比(Risk Ratio)は0.99で、95%信頼区間は1を跨いでいるため、夜勤は乳癌発症のリスクにはならないという結果になっています。

各研究ごとのバラツキも評価していますが(Heterogeneity)、統計学的な有意差は認めていません(P = 0.052)。

▪️ 研究の限界

メタ解析を合わせると、140万人のデータを集めていますが;

  • 乳癌のリスクは低いので、統計学的に小さな差を検出できなかった
  • 肥満、喫煙、睡眠など、十分に統計学的に対処できなかった
  • 乳癌の検出率の違い

などを著者らは述べています。

まとめ

今回の3つのコホート研究と、140万人のデータを分析したメタ解析では、夜勤は乳癌のリスクを上昇させるわけではなさそうです。