医療政策

抗菌薬適正使用の目標と達成時のインセンティブは、適正使用を推進させる?[イギリス編]

臨床ガイドラインや、処方パターンを変えるための数十年にわたる努力にもかかわらず、抗生物質の過剰使用は依然として続いている国も多数あります。

イギリスもその国の1つのようだったようで、あれこれと対策はするも上手くいかず、2015年頃に新しい政策が導入されたようです。

主には、抗菌薬の処方データをしっかり集めて集計し、フィードバックする方法で、さらに目標に達成したらインセンティブを貰えるという方式だったようです。

今回はその効果を検証した論文を見てみましょう。

ユーキ先生
ユーキ先生
抗菌薬の適正使用を促す方策って何がありますか?

Dr.KID
Dr.KID
各国、色々と行っているようですね。

ポイント

  •  イギリスの急性期病院において行われた研究
  •  抗菌薬の適正使用を推進するプロジェクトの政策効果を確認

   イギリスからの報告です。

抗菌薬適正使用の目標と達成時のインセンティブは、適正使用を推進させる?[イギリス編]

研究の背景/目的

2016/2017年に、財政に連動した抗生物質処方の質改善イニシアチブ「Commissioning for Quality and Innovation(AMR-CQUIN)」がイングランドの急性期病院全体に導入された。

これは、合計の抗生物質、ピペラシリン/タゾバクタム、カルバペネムのDDDs/1000入院患者数を2013/2014年と比較して1%以上削減し、経験的抗生物質処方の見直しを改善することを目標としていました。

抗生物質処方の質改善イニシアチブ「AMR-CQUIN」に関する抗菌薬適正使用の啓蒙活動を主導するスタッフの認識、AMR-CQUINを達成するために病院が行った投資、およびそれが抗生物質使用量の削減にどのように関係しているかを評価した。

研究の方法

イングランドの急性期病院の抗菌薬適正使用推進チームのリーダーに、ウェブベースの調査に回答してもらった。

抗生物質の処方データは、抗生物質耐性地域指標リソースからダウンロードしました。

Dr.KID
Dr.KID
アンケート+地域データを使用した研究のようですね。

研究の結果

116/155(75%)の急性期病院から回答を得た。

抗生物質の使用量は年々増加しているため、AMR-CQUINの目標である1%削減を達成するためには、ほとんどの病院が抗生物質の使用量を5%以上削減する必要があった

23/113(20%)の信託で追加の資金調達が可能となり、18(78%)ではAMR-CQUIN値の10%未満となりました。

全国的には、抗生物質使用量の増加傾向は2016/2017年に逆転した。

2014/2015年と2016/2017年の前年比は、以下の通りであった:

  2014/15 2016/17
合計 +3.7%
(-0.8%, +8.4%)
+0.1%
(-5.4%, +4.0%)
ピペラシリン/
タゾバクタム
+9.4%
(+0.2%, +19.5%)
-4.8%
(-16.9%, +3.2%)
カルバペネム +5.8%
(-6.2%, +18.2%)
-8.0%
(-20.2%, +4.0%)
  •  

スタッフが抗生物質の使用を減らすことができると考えている病院は、その可能性が高かった(P < 0.001)。

結論

抗生物質処方の質改善イニシアチブ「AMR-CQUIN」の導入は抗生物質使用量の減少と関連していた。

個々の病院では、AMR-CQUINの達成はスタッフの好ましい認識と関連しており、資金調達の有無とは関連していなかった。

考察と感想

面白い研究ですね。

抗生物質処方の質改善イニシアチブ「AMR-CQUIN」は、しっかりとしたデータ収集と抗菌薬の処方実態の報告に裏打ちされた目標設定が行われていたようです。

主にはこのAMR-CQUINのアプローチが、病院の抗生物質過剰使用の削減に貢献していたようです。

削減目標を達成した病院では、新たな資金調達の可能性よりも、抗菌薬の適正使用に前向きなスタッフの態度が重要であったとようです。

Dr.KID
Dr.KID
インセンティブがあると達成しようと頑張るものでしょうが、現場の方の考え方の方が重要だったようです。

まとめ

今回は、イギリスで行われた急性期病院での研究結果でした。

抗生物質処方の質改善イニシアチブ「AMR-CQUIN」は、データ収集と抗菌薬の処方実態の報告に裏打ちされた目標設定がされました。

主にはこのAMR-CQUINのアプローチが、病院の抗生物質過剰使用の削減に貢献していたようです。

特に、削減目標を達成した病院では、新たな資金調達の可能性よりも、抗菌薬の適正使用に前向きなスタッフの態度が重要であったとようです。

 

医療の質の関連書籍はこちら↓↓

created by Rinker
¥4,180
(2024/03/18 23:57:56時点 Amazon調べ-詳細)

created by Rinker
¥3,300
(2024/03/18 23:57:57時点 Amazon調べ-詳細)

Dr. KIDの執筆した書籍・Note

医学書:小児のかぜ薬のエビデンス

小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:

小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。

医学書:小児の抗菌薬のエビデンス

こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。

日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。

created by Rinker
¥3,850
(2024/03/19 18:37:25時点 Amazon調べ-詳細)

Dr.KID
Dr.KID
各章のはじめに4コマ漫画がありますよー!

noteもやっています

かぜ薬とホームケアのまとめnote

小児のかぜ薬とホームケアの科学的根拠

 

小児科外来でよくある質問に、科学的根拠を持って答えるnote

保護者からのよくある質問に科学的根拠で答える

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。