今回は、ドイツ南西部の人口集団を対象とした1~10歳児とその親における新型コロナウイルス[重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)]の感染率と抗体の血清有病率を推定した研究を紹介します。
- ドイツで行われた研究
- 流行の初期において、小児と保護者の検査陽性率を調査
- 小児の陽性率は極めて低かった
2021年1月に公表されたようです。
流行の初期における小児と保護者の新型コロナ感染率は?[ドイツ編]
研究の背景/目的
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを封じ込めるための対策として、ドイツにおいても学校や保育園の閉鎖が実施されました。
この政策が行われた背景には、小児が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大に重要な役割を果たす可能性がある、と当初は想定されたためです。
小児の接触制限は(学業などに)重大な影響を考えると、小児の接触制限がCOVID-19パンデミックにどのように寄与したかを理解する必要がある。
集団ベースのサンプルにおいて、1 歳から 10 歳までの小児の SARS-CoV-2 感染率および SARS-CoV-2 抗体の血清有病率を、各小児の対応する親と比較して記述すること。
研究の方法
この多施設大規模横断的調査(COVID-19 BaWü試験)では、ドイツ南西部で2020年4月22日から5月15日までの間に、1歳から10歳までの小児とそれに対応する保護者が登録された。
主なアウトカムは、新型コロナウイルスの感染と抗体有病率であった。
参加者は、鼻咽頭スワブでは新型コロナウイルスのPCR検査を、血清からは特異的IgG抗体の検査が行われた。
結果が不一致した結果は、electrochemiluminescence immunoassays, a second enzyme-linked immunosorbent assay, あるいは in-house Luminex-based assayによって追加検証を行なった。
研究の結果
この研究には 4964 名の参加者が含まれた:
- 2482 名の小児(年齢中央値、6歳[範囲、1~10])
- 2482 名の保護者(年齢中央値、40歳[範囲、23~66]歳)
参加者のうち 2 名(0.04%)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNA陽性であった。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の抗体保有率は、両親では1.8%[95%CI、1.2-2.4%]と低く、小児ではさらに低かった(0.6%[95%CI、0.3-1.0%])。
少なくとも 1 人の子/親が陽性であった56の家族において、
- 親が陽性 & 子供は陰性
- 親が陰性 & 子供は陽性
の割合を比較したところ、前者(親のみが陽性)の方が4.3倍(95% CI,1.19~15.52)高かった。
IgG 陽性の血清検体 70 例中 66 例(94.3%)でウイルス中和活性が認められた.
結論
この横断的研究では,ドイツ南西部のロックダウン期間中の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の広がりは,特に 1 歳〜10 歳までの小児では低かった。
したがって、小児がパンデミックを後押ししたとは考えにくい。
この新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の有病率の調査は、小児に焦点を当てた最大規模のものである。
また、大量な検査結果を用いた事後の研究が、パンデミックにおける合理的な政治的意思決定の基礎を提供するという点で有益である。
考察と感想
これを執筆しているのは2021年の1月下旬ですが、この研究の対象となったのは、2020年4-5月ですので、流行の比較的早期の段階です。
今回の新型コロナウイルスに関しては、流行の初期は成人での広がりが多かったですが、未知の感染症というのもあり、流行の早期で学校閉鎖を行わざるを得なかったのは、致し方なかったのではないかと私は考えています(もちろん、振り返ることは重要です)。
ドイツの事情に詳しくはないですが、小児において流行していない状況でロックダウンした時の検査結果ですから、小児の陽性率が極めて低いのは当たり前のように思えてしまいました。
流行においてどのような役割があるのかを議論するには、こういった横断調査ではなく、学校再開後の広がりなど、時系列に沿ったデータが必要かと思いました。その点を考慮すると、著者らの結論はデータから導き出されるものではないような気もしてしまいます(ただし、結論に関しては同意しています)。
まとめ
ドイツ南西部に居住する1~10歳児とその親を対象とした、新型コロナウイルスの感染率を推定した研究でした。
流行の初期の段階のデータになりますが、小児が検査(PCRや抗体)陽性となる割合は極めて低かったようです。
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