小児においては、慢性ITPにおけるピロリ菌の除菌効果を検証した研究は複数あります。
今回は、ピロリ菌の除菌効果に疑問を投げかけた研究です。
Autoimmune thrombocytopenic purpura and Helicobacter pylori infection effectivity during childhood
ITPはかつて特発性血小板減少性紫斑病 or 免疫性血小板減少性紫斑病、その後、免疫性血小板減少症と呼び名が変わっています。
研究の概要
背景・目的
Helicobacter pylori感染とITPの間の密接な関連が示されているが、矛盾した所見も存在し、 H.pylori感染とITPの確立された関係は示されていない。
方法
著者らは、慢性ITPの小児35人におけるH.pylori感染の罹患率と血小板回復に対するH.pylori除菌の効果を調査した。
ITPの診断は、臨床基準と末梢血および骨髄所見に基づいた。診断後の追跡期間は少なくとも2年であった。
全例おいて、血清H.pylori IgGクラス抗体はELISAにより測定され、血清陽性の場合、患者は尿素呼気試験 (UBT) を受けた。
5人の患者では、内視鏡検査を行った。
血清学的、UBT、および/または組織学的検査によりH.pylori感染を有することが示された患者(n=11)を従来のアプローチで除菌治療した。
治療終了2か月後、 H.pylori除菌のためのUBTで患者を再検査した。
結果
試験に組み入れた全ての患者の血小板数は、 50×10^9/L以下であった。
35人のcITP患者のうち13人 (37%) では、血清H.pylori IgG力価は正常値より高かった(範囲:1.9~7)。この13人の患者中11人 (31%: 11/35) は血清学的およびUBTによりH.pylori感染を示し、これら11人の患者中5人も組織学的検査で陽性であることが示された。
ピロリ菌治療後、 UBTは11人の患者中2人で陽性であった。
治療後の血小板数は、少なくとも1年間の追跡期間中、全ての患者で同じ範囲内で持続した。
考察・結論
30歳未満のH.pylori感染の血清陽性率は、以下のように推定されている:
- トルコに住むトルコ人:45%
- ドイツに住むトルコ人:30%
- ドイツ人: 13%
興味深いことに、 ITPを有さない人々におけるH.pyloriの血清陽性率 (45%) は、 ITPを有する著者らの患者 (37%) よりも高かった。一方、ドイツに住むトルコ人集団におけるH.pyloriの罹患率は以下のものとほぼ同等であった。
日本人グループは、未知の血小板抗原とH.pylori蛋白質の分子類似性が患者のサブセットにおけるITPの病因に決定的に関与することを最近示した。
著者らの患者では、除菌成功(n=9)後、経過観察中に完全寛解または血小板数増加を示した患者はいなかった。
これらの知見はすべて、 H.pylori感染の有病率は成人で異なるのと同様に、小児期でも集団が異なれば有病率も異なることが示唆される。本研究は、小児ITPとH.pylori感染の間の関係を明らかにする最初の試みである。
現在までに報告された研究結果は、複数の因子がITPに影響し、 H.pylori感染に関連して免疫応答に影響することが示唆されている。著者らの研究結果は、 H.pylori感染の罹患率は集団間で変動し、 H.pylori感染とITPの間に直接的な関係はないという知見を支持した。結果の差は、年齢の変化による宿主の免疫応答の変化の結果でもあるのかもしれない。
考察と感想
ピロリ菌への感染ですが、環境的な要因が大きいことが示唆された研究でもあると思います。
移民を対象にした研究はmigration studyといいます。今回は、トルコ、トルコ→ドイツ、ドイツに3つに分けてみています。ピロリ菌の有病率はこの順で低くなっており、移民は現地の有病率に近くなっている点が示されています。
除菌を成功した9名のうち、血小板数の改善はほとんど認められなかったようですね。一方で、詳細なデータの提示がない点が微妙な気がします。
まとめ
今回は、小児の慢性ITPにおいて、ピロリ菌感染者に対して除菌をしています。
ピロリ菌感染で除菌した場合の血小板の推移は、ほとんど変わらなかったようです。
これを根拠に、著者らは小児の慢性ITPに対するピロリ菌除菌の有効性に否定的な考えのようです。
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