科学的根拠

コデインやデキストロメトルファンは小児の夜の咳に無効かもしれない

  •  『夜に咳が辛そうで、起きてしまうので、咳を止めてくれる薬をください』
  •  『咳がひどいので、なんとかして止めたいのです』

と外来でご相談を受けることが多々あります。
お子さんが風邪を引いて咳き込んでいると、止めてあげたくなるのは自然のことですし、夜中に咳のせいで起きてしまったり、咳き込みで食事を吐いてしまったら、なんとかして止めたいと考える、そのお気持ちは大変理解できます。

しかし、小児科や市販薬で処方されている「咳止め」に本当に有効性があるのか、その研究結果をご存知の方は少ないでしょう。
今回は、咳止めの有効性を検討した研究をご紹介します。

Dr.KID
Dr.KID
薬には必ず副作用がありますし、有効性のない薬を飲んでも仕方がないですよね?

研究の背景

まずは研究の背景から簡単に説明して行きましょう。

アメリカ小児科学会も咳止めを推奨していた時期もあった

1978年にまで遡ると、「咳で寝不足になるような小児であれば、咳止めの使用を検討しても良い」という趣旨のコメントをしていました。

しかし、現在、アメリカ小児科学会は小児への咳止め(特にコデイン)は推奨しておらず、むしろ「使用してはならない」という立場にいます。

手の平を返したのも様々な理由があり、

  •  小児の咳止めとしての有効性が疑問視されている
  •  副作用のリスクがある
  •  咳を無理に止めると、肺炎のリスクが上がるかもしれない

など、様々な報告や見解が述べられたこともあります。

今回は、こちらの研究をピックアップしました。

Taylor JA, et al. Efficacy of cough suppressants in children. J Pediatr. 1993;122:799-802.

少し古い論文ですが、こちらの研究では

  •  コデインやデキストロメトルファンはプラセボ(偽薬)と比較して、咳を和らげるか?

という点を見ています。
やや古い論文ですが、小児はよく風邪を引きますので、薬の有効性があるか否かは知っておいて損はないと思います。

補足:薬の名前について

ひょっとしたら、コデインやデキストロメトルファンという名前が聞きなれないかもしれませんが、

成分名 商品名 一般用医薬品
コデイン セキコデ®︎
カフコデ®︎
フスコデ®︎
アルペンこども風邪薬
ジキニンシロップ
デキストロメトルファン メジコン®︎
アストマリ®︎
シーサール®︎
キッズバファリンかぜシロップ

などが代表的です(ほんの一部です)。
(*コデイン入りの小児の市販薬は2019年から販売中止になりました。)

研究の方法

今回の研究は、

  •  1988-1991年
  •  18ヶ月〜12歳の小児
  •  夜中のひどい咳(14日以内)
  •  基礎疾患がない(喘息など)

を対象に二重盲検化ランダム化比較研究(Double blind RCT)が行われました。

治療について

治療は3つのグループに分けられ、

  1.  デキストロメトルファン+グアイフェネシン
  2.  コデイン+グアイフェネシン
  3.  プラセボ(チェリー・シロップの偽薬)

の就寝前内服を3日間行っています。
(*グアイフェネシンは去痰薬の一種です)

アウトカムについて

アウトカムについては、

  •  咳の重症度:0(全くなし)〜4(非常に頻繁にある)
  •  咳+睡眠+咳き込み嘔吐を足したスコア

を0〜3日に記録しています。

研究の結果と考察

57人の患者が研究に参加し、内訳は

  •  デキストロメトルファン:19人
  •  コデイン:17人
  •  プラセボ:13人

でした。

グループ間で男女比、年齢、治療開始前の咳の重症度とそのほかの症状のスコアは同じような値でした。

Dr.KID
Dr.KID
きちんとランダム化されているか、まずは確認していますね。

治療開始後の咳症状について

こちらは論文からの抜粋になります。

コデイン、プラセボ(偽薬)、デキストロメトルファンのグループを比較しても、症状の変化に統計学的な有意差はありませんでした。

Dr.KID
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コデインやデキストロメトルファンといった薬を使用しても、咳が大きく改善するわけではなさそうです。

副作用について

副作用についても評価されており、

  •  プラセボ:7 / 13人
  •  コデイン:5 / 17人
  •  デキストロメトルファン:6 / 19人

という結果でした。
コデインを摂取していた4歳男児のみ、肺炎となりました。

論文を読んだ感想

コデインやデキストロメトルファンは、それなりに強めの咳止めと思っていたので、多少なりとも有効性があるかと思いきや、結果は有効性なしの研究でした。
通常、風邪による咳は1週間近くは続くので、もう少し長い期間を研究してもよかったのかもしれません(本研究は3日間のみ)。

気になった点としては、年齢です。18ヶ月から12歳で参加者を募っていますが、サンプル数に比して、いささか対象年齢が広すぎる気がしました。
もちろん、各グループでの年齢平均はほぼ同じですが、咳止めの効果が年齢層によって微妙に異なる可能性もあったと思います。
あらかじめ、年齢で分けてRCTを行うこともできるので、そちらの手法をとってもよかったでしょう。

Dr.KID
Dr.KID
あらかじめ年齢などで分けてからランダム化する方法を「Blocked RCT」といいます。

もちろんですが、1つの研究のみで

  •  コデインが咳に効かない
  •  デキストロメトルファンは咳に効かない

と断言することはできません。
類似の研究結果の蓄積を持って評価するのがフェアです。
もう少し似たような研究を探してみようと思います。

Dr.KID
Dr.KID
1つの研究を過大評価しすぎないようにしましょう。

まとめ

今回の研究では、コデインやデキストロメトルファンといった咳止めの有効性は、治療開始後3日間においては確認できませんでした。

もう少し類似のエビデンスを皆様にも提示できればと思います。

Dr.KID
Dr.KID
エビデンス(科学的根拠)の集積を見ることは大事!

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。