栄養

乳幼児期の鉄欠乏は、25年後の教育レベル、就職、結婚、心の健康に影響があるかも

以前、1歳未満の乳児に牛乳を与えると、鉄欠乏になりやすくなると説明しました。

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鉄分は不足すると貧血になりますが、それ以外にも熱性けいれんを起こしやすくなるなど報告されています。

さらに、乳児期の鉄欠乏と10年後の認知機能・脳の電気活動に悪影響がある可能性を示した論文があります。

 

さて、今回は乳幼児期の鉄欠乏と25年後の社会・健康レベルへの影響をしめした論文をみていきましょう。

www.ncbi.nlm.nih.gov

研究の背景

『鉄欠乏が長引くと、乳幼児の発達に悪影響があり、その後の将来にも影響する可能性がある』と考える医師がいます。

例えば、鉄欠乏性貧血は

  • 熱性けいれんを起こしやすくする
  • 運動機能に影響する
  • 10年後の脳の電気活動に影響をする

などといった論文があります。

特に認知機能への影響が懸念されており、乳幼児期の鉄欠乏性貧血が長引くと、

  • 留年しやすい、特別学級に入りやすい
  • 感情が不安定になりやすい
  • 社会的に問題行動を起こしやすい
  • 不注意になりやすい

といった報告もあります。

今回は乳幼児期の鉄欠乏が25年後にどのような影響があるか検討しています。

 

研究の方法

対象患者

今回の研究は、

  • コスタリカの労働階級の乳幼児
  • 1983年2月からのフォロー
  • 基礎疾患なし(健常児)

の 191人を対象に行われています。

このうち、25年後の検査にこれた122人が研究の対象となっています。

アウトカム

研究のアウトカムは主に、

  • 高校の卒業
  • 雇用状況
  • 婚姻
  • メンタルヘルス

をみています。

交絡因子の対処法(傾向スコア(PS)による対処)

今回は傾向スコア(PS)による対処がされています。

傾向スコアマッチング(PSマッチング)が有名かもしれませんが、マッチングしなくとも交絡因子を対処することができます。

その方法の1つがPSによる対処(PS adjustment)でして、回帰分析のモデルにPSを組み込むことができます:

  • アウトカム = β0 + β1 x 治療/介入 + Σi βi x PSi
f:id:Dr-KID:20180923121333p:plain

上に書いたDAG (Directed Acyclic Graph)のように、性別や親のSES(教育レベルや収入など)といった交絡因子をPSで1つにまとめてしまいます。

別の言葉でいうと、PSはこどもが鉄欠乏になる確率です。この確率を、性別と親のSESから予測をしているのです。

 

研究結果と考察

高校卒業について

教育レベルの指標として高卒ですが、

  • 鉄欠乏あり:58.1%
  • 鉄欠乏なし:19.8%

と鉄欠乏ありのほうが、高校卒業できない人の割合が多かったです。(P = 0.003)

 

雇用状況について

現在、雇用されているかですが、

  • 鉄欠乏あり:76.1%
  • 鉄欠乏なし:31.5%

と鉄欠乏ありのほうが、雇用されてない人の割合が高かったですが、両者に統計学的な有意差はありません。(P = 0.08)

 

婚姻について

次に結婚しているか否かですが

  • 鉄欠乏あり:83.9%
  • 鉄欠乏なし:23.7%

と鉄欠乏ありのほうが、独身である可能性が高かったです(P = 0.003)

 

メンタルヘルスについて

最後に負の感情があるか否かですが

  • 鉄欠乏あり:0.52
  • 鉄欠乏なし:0.72

と鉄欠乏ありのほうが、メンタルヘルスの値が低く、負の感情を抱いていました(P = 0.003)

 

結果の解釈について

乳幼児期の鉄欠乏が

  • 教育レベル
  • 将来の雇用
  • 婚姻
  • メンタルヘルス

に悪影響がある可能性が研究から示唆されています。しかし、私は以下の3つの点から、乳幼児の鉄欠乏による25歳時点の影響を結論づけるのは早いと考えています:

  1. サンプルサイズ
  2. 追跡不能例の影響(Loss to follow-up)
  3. 交絡因子の影響

1つはサンプルサイズです。今回の例ではコスタリカのとある地域で行われた110名程度の研究です。極端な症例ばかりが集まった可能性もありますし、日本とは社会環境が大きくことなるため、今回の結果が日本の乳幼児に一般化できない可能性もあると思います。

2つ目はLoss to follow-upの例です。最初のコホートは190名ほどで行われ、今回の研究では約110名にまで減っています。追跡不能により解析できなかった人の影響次第では、結果が大きく変わってしまう可能性もあります。

3つめは交絡因子の対処です。今回はPSを使って対処していますが、

  • PSによるそのものが不十分
  • 計測されていない交絡因子の影響(例えば親の喫煙など)

がありうると思います。

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時々、PS(傾向スコア)を使った解析はランダム化比較試験(RCT)と同様と勘違いされていることがあります。しかし、RCTのようにすべての交絡因子(計測できなかった因子)を対処できるわけではありません。

今回も性別とSESのみの対処であり、研究者らの報告が妥当かどうかははっきりしないと思います。

まとめ

鉄欠乏性貧血が乳幼児期にあると

  • 教育レベル
  • 将来の雇用
  • 婚姻
  • メンタルヘルス

に悪影響がある可能性が研究から示唆されました。

しかし、より大きなコホート研究で、これらの結果について、さらなる検証が必要と考えています。

 

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