小児科

【論文】新生児のビタミンK不足と重大な出血の調査【イギリス・アイルランド】

前回、こちらの論文で「なぜ保護者は新生児のビタミンK予防投与を拒否するのか」について言及してきました。

 

こちらの結果では、ビタミンKの予防投与を拒否する方の特徴として、

  • 予防措置も拒否する(点眼と予防接種)
  • 白人
  • 完全母乳栄養

などがあげられており、保護者の「より自然に」という考えが示唆されていました。

ちなみに、ビタミンKの予防投与を拒否する方は、

  • アメリカ:0.6%
  • ニュージーランド:1.7%
  • カナダ:0.5%

となっています。

今回はこちらの記事をピックアップしました。

イギリスとアイルランドで、ビタミンK欠乏性出血の起こった方にアンケートを送り、検討しています。

www.ncbi.nlm.nih.gov

アメリカ小児科学会(AAP)から出版されている雑誌に掲載されています。

 

 

研究の方法

イギリスとアイルランドでは定期的にビタミンK欠乏性出血の調査を行なっています。今回は4回目の調査で

  1. 1990年
  2. 1998年
  3. 2002年
  4. 2008年

となっています。

対象患者について

対象患者は

  • イギリス、アイルランドで2006〜2008年に出生
  • 生後6ヶ月未満
  • ビタミンK欠乏性出血が疑われた

症例となっています。

これらの症例にアンケートを送り、さらに確定症例のみを研究の対象として絞り込んでいます。

 

研究結果と考察

 2年間でビタミンK欠乏性出血が確定したのは10名でした。そのうち

  • 6名は予防投与を受けていない
  • 4名は予防投与を受けている

でした。

年度別にみたビタミンK欠乏性出血の発症率

年度別にビタミンK欠乏性出血の発症率をみてみると、

  • 1990年:1.61人/10万出生
  • 1998年:1.98人/10万出生
  • 2002年:0.48人/10万出生
  • 2008年:0.64人/10万出生

と、90年代より減少しているのがみてとれます。

減少した理由として、

  • ビタミンKの使用率が上がった
  • 筋注のほうが使用されやすくなった(より効果が確実)

と考えられています。

実際にビタミンK使用群と非使用群で出血のリスクはどのくらい違うのか?

ここからは論文のデータを用いて簡単にシミュレーションをしてみます。

これらのデータをみて、「ビタミンK欠乏性出血は、投与した人が4人で、していない人が6人なので、大した差がないのでは?」と思うかもしれません。

ですが、この発症数の人数だけでなく、分母も考慮しないといけません。

例えば、今回の研究では、

  • 出生者数:170万人
  • 予防投与なしで出血:6人
  • 予防投与ありで出血:4人

でした。

実際に予防投与を拒否した人数の割合がわかりませんが、過去の研究では

  • アメリカ:0.6%
  • ニュージーランド:1.7%
  • カナダ:0.5%

となっており、およそ0.5〜2.0%くらいの幅におさまると仮定してみましょう。

ビタミンK予防投与の拒否が0.5%の場合

この場合:

  • 予防投与なし:0.07%(6/8500)
  • 予防投与あり:0.0002%(4/1,691,500) 

 となっています。リスク比(RR)にすると、RR = 299倍となります。

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ビタミンK予防投与の拒否が1.0%の場合

この場合:

  • 予防投与なし:0.035%(6/17,000)
  • 予防投与あり:0.0002%(4/1,683,000) 

 となっています。リスク比(RR)にすると、RR = 148.5倍となります。

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ビタミンK予防投与の拒否が1.5%の場合

この場合:

  • 予防投与なし:0.0235%(6/25,500)
  • 予防投与あり:0.0002%(4/1,674,500) 

 となっています。リスク比(RR)にすると、RR = 100倍となります。

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ビタミンK予防投与の拒否が2%の場合

この場合:

  • 予防投与なし:0.0176%(6/34,000)
  • 予防投与あり:0.0002%(4/1,666,000) 

 となっています。リスク比(RR)にすると、RR = 74倍となります。

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データを合わせると

全てのデータを合わせて曲線を作ると、

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となります。出血数がかなり少ないので、シミュレーションの正確性は低いですが、ビタミンKで予防しないことによる出血のリスクはおよそ50〜300倍となるのかもしれません。(データが限られており、かなり大雑把な見積もりですので、ご容赦ください)

日本のデータと照らしあわせても、

  • ビタミンK拒否:1/300 (新生児) + 1/4000(乳児)
  • ビタミンK投与:ほぼ0(新生児) + 1/50000(乳児)

になりますので、ビタミンKを投与しないことで、重大な出血のリスクをおよそ100倍ほど負っているのがわかります。

まとめ

ビタミンKは、赤ちゃんの重大な出血を予防するためにとても重要なビタミンです。

イギリスとアイルランドでは、10人出血したうち6名はビタミンKの予防投与を受けていませんでした。

論文のデータからシミュレーションをしてみましたが、ビタミンKの予防投与を行わないと、重大な出血を起こすリスクが大きく上がりそうです(大雑把にみて、50〜300倍)。

 

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Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。
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