- 下痢の時、ミルクを薄めるように
という指導もよくあるようです。
この方法は「Delayed feeding(栄養を遅らせる)」という方法で知られています。理論上の話ですが、胃腸炎によって生じた炎症による、炭水化物の吸収不良、下痢による水分の喪失、酸塩基平衡のバランスの崩れ、タンパク質の吸収不良、といった不具合を避けることを目的にしているようです。
しかし、あくまでも「理論上の話」であり、本当にこの考えが正しいか、実臨床に沿った理論なのかは検証する必要があります。
今回は、この方法にメリットがあるのかを触れた論文の解説をしようと思います。
- 小児の下痢の時、ミルクを薄めるべきか、乳糖を避けるべきか検討した研究
- ミルクを薄めても、下痢の期間は短縮せず、むしろ体重回復が遅れる
- 乳糖を避けると、下痢の期間は短縮かもしれない
ミルクを薄めるべきかですが、過去の研究結果をみると、基本的に薄める必要はないと考えられています。
乳糖を避けるべきかは、様々な研究で検討されており、総合的な判断が必要と考えています。
研究の概要
今回は、小児の下痢において、ミルクを薄めるべきか、乳糖を避けるべきか検討した研究になります。
イギリスで、1986-87年に報告されたランダム化比較試験(RCT)になります。
対象患者
対象となったのは、
- 生後6週〜12ヶ月の乳児
- 胃腸炎で入院
- 下痢の期間は受診時に14日以内
の患者が対象です。
治療
治療は、脱水の補正を行なった後に、以下の4つのタイプに分けています。
タイプ | 内容 |
1 | 〜24時間:経口補水液のみ 24〜48時間:1/2に薄めたミルク 48〜72時間:3/4に薄めたミルク 72時間〜:通常のミルク |
2 | 乳糖が少ないミルク(HN 25) 下痢が改善して2日したら通常のミルク |
3 | 普通のミルクを最初から |
4 | 大豆からできたミルク |
です。少しわかりづらいかもしれませんが、ざっくりとわけると
- ミルク薄める派
- 乳糖は与えない派
- 普通のミルク派
- 大豆でできたミルク派
となります。
乳糖フリーのミルクは国内では「ノンラクト」などが該当します(推奨ではありません)
大豆由来のミルクとしては、ボンラクトがあります(こちらも推奨ではありません)
研究結果
それぞれのグループに50人ずつが参加しています。
結果は以下の通りでした
1. 下痢の期間
下痢の期間は、以下の通りでした。
グループ | 下痢の期間 平均(SD) |
1. 薄める | 64時間 (53.7) |
2. 乳糖フリー | 47時間 (53.7) |
3. 普通 | 68時間 (43.6) |
4. 大豆派 | 51時間 (41.5) |
少なくともミルクを薄めるメリットはなさそうですね。下痢の期間は短縮していないですし、乳糖フリーのミルクが一番短そうです。
2. 体重変化
体重の回復(平均)ですが、以下の通りでした。
(原著より拝借)
「Oral rehydration solution」と書かれた点線が、上のグループ1(ミルクを薄める派)になります。体重の回復がもっとも遅いのがわかります。
3. 入院日数について
入院日数を比較しています:
グループ | 入院日数 平均(SD) |
1. 薄める | 6.9日 (3.2) |
2. 乳糖フリー | 6.9日 (1.9) |
3. 普通 | 6.9日 (2.2) |
4. 大豆派 | 7.1日 (3.6) |
入院期間は、どの治療法でも変わりなさそうですね。
4. 胃腸炎の病原体について
胃腸炎の病原体については、以下の通りでした。
病原体 | N = 200 |
不明 | 129 |
ロタウイルス | 45 |
サルモネラ | 13 |
カンピロバクター | 4 |
大腸菌 | 7 |
ロタウイルス +大腸菌 |
1 |
ロタウイルス + サルモネラ |
1 |
不明はおそらくウイルス性の可能性が高いでしょう。まだロタウイルスワクチンが開発される前なので、ロタウイルスの割合が比較的高いですね。
感想と考察
今回の研究に関しては、小児が下痢をしたときに、あえてミルクを薄めるするメリットはない印象ですね。
ミルクを薄めると、かえって体重の回復が遅れますし、下痢の期間は変わらないです。
まとめ
今回は、乳児の下痢に対して、ミルクを薄めるべきかを検討しています。
今回の研究に関しては、小児が下痢をしたときに、あえてミルクを薄める必要はないでしょう。
ミルクを薄めても、下痢の期間は短縮せず、むしろ体重の回復が遅れる傾向にありました。
類似の研究は多数出ているので、今後も報告していければと思います。
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