今回は、小児の新型コロナと感染力について論じた論文を紹介しようと思います。
- 乳幼児は感染リスクそのものは低いが、周囲に伝播させる能力は強いかも
- 10代の方が感染リスクそのものは高い
- 大人はワクチンを打って準備を
JAMA pediatricsから公表
子供がCOVIDを感染させる可能性はあるが、大人は恐れる必要はない [ワクチンを接種しましょう]
RSウイルス感染の連鎖からの視点
HallとDouglasによる象徴的な論文「Cuddlers, Touchers, and Sitters」(旧題「Modes of Transmission of Respiratory Syncytial Virus」)は、呼吸器系ウイルスと子どもの行動に関する最もシンプルな説明の1つとして今日まで残っています。
ウイルス感染の大部分は感受性の高い人と感染した人の間の相互作用によってもたらされることを示しました。RSウイルス(RSV)に感染した乳児から、
- 乳児を膝の上に乗せて座ったり
- ベビーベッドに寝かせた状態で乳児に触れたり
- ベビーベッドの横に座ったり
した大人の介護者への感染の可能性を調べました。その結果、抱っこする人が最も感染しやすいという結果が出ています。
多くの呼吸器系ウイルスは、感染者との時間、距離、そして接触の方法によって広がり方が異なるようです。
10代の方が、社会的な流動性が高く、一次感染になりやすい
家庭内でのSARS-CoV-2ウイルスの感染に関する研究があります。
この研究では、カナダのオンタリオ州の公衆衛生データを用いて、明らかに一次感染者が子供であると思われる集団を特定しています。
調査結果の中には驚くべきものはなく、ほとんどの二次感染者の年齢分布を見ると、兄弟(0~20歳)か両親(30~50歳)である可能性が高いです。
さらに、10代の小児は、乳幼児や小学校低学年の子供よりも家庭内の一次感染のケースになる可能性が高いです。これは、社会的流動性が高いからかもしれません。
矛盾するような研究結果は、不十分なデータのせい?
上述した2つの研究をまとめると、
- 幼い子ども(4歳未満)は、一次感染者になる可能性が低い
- 一方で、その世帯の他のメンバーの感染源になる可能性が高い
という、一見すると矛盾したように感じる結果が出ています。
今回のCOVID-19のパンデミックの初期において、乳幼児がどのような状況にあったかを思い出してみましょう。
乳幼児は家に閉じこもり、仕事をしている両親や遠隔地で学んでいる兄弟と一緒に過ごしていたのです。このような家庭では、ウイルスが家族の輪の中に入ってくる機会はほとんどありませんでした。
また、検査能力が限られており、高齢者や医療従事者、入院を必要とする病気の人を中心に検査が行われていました。この事実が、この新型ウイルスが幼い子どもたちには感染しにくいという印象を与える要因となっていました。
このような初期のパンデミックの状況下で、幼い子どもがCOVID-19と診断されたときには、当然ながら驚きました。
オンタリオ州のビジネス・学校再開のデータの解釈
時は流れ、新たな研究が行われました。
オンタリオ州がビジネスを再開し、子どもたちが学校や保育園に戻ってきた頃です。
このようなより現実的な状況下では、乳幼児が感染するだけでなく、SARS-CoV-2を拡散させる可能性もあることがわかります。
実際、感染した子供はSARS-CoV-2を周囲に拡散させる危険性があるという前提のもと、学校や保育園の安全計画では、学校生活を通して生徒のマスクの着用、社会的距離を置くことの重要性をコアとしています。
しかし、こうしたやり方は、子供は重症化しにくく(本当)、他人に感染させる可能性も低い(これは本当ではない)という観察結果と矛盾していました。
これらの安全計画は、感染した学校スタッフと生徒の間の感染を減らすことと、全員の家族を守ることに重点が置かれていました。この研究により、これらの対策が、ワクチンによる安全性を待ち望む国民にとって重要な目的であったことが明らかになりました。
家庭内でウイルスを拡散させる可能性が最も高いのは?
しかし、このデータにはいくつかの驚きがあります。
家庭内でウイルスを拡散させる可能性が最も高いのは幼い子供であるという研究者の発見には、いくつかの考察が必要です。
現在のところ、幼い子どもが排出するウイルス量が、10代や大人が排出するウイルス量よりも多いという証拠はありません。
実際、ほとんどの研究では、小児期には年齢が上がるにつれてウイルス排出量が増加することが示唆されています[5]。
さらに、これまでの研究では、幼児は高齢者に比べて無症候性感染の可能性が高く[6]、無症候性感染者は症候性感染者に比べて感染の可能性が低いことが報告されています[7]。
この研究では、確認バイアスが働いている可能性がありますが(つまり、症候性の人が検査を受ける可能性が高い)、この結果は、一次感染者が症候性である世帯に限定して分析しても変わりませんでした。
乳幼児が周囲に感染させる理由は?
最年少の子どもたちがCOVIDに感染すると、なぜ他の人に感染しやすいのかを理解するには、乳幼児特有の行動を考慮する必要があります。
乳児や幼児は、病気になると周囲に注意を求めます。
また、最年少の幼児のマスク着用効果の信頼性は低く、ソーシャルディスタンスの意味を必ずしも理解していません。
もちろん、幼い子供がこれらを理解する必要はないでしょうし、抱っこしたり触ったりすることは、感染した幼い子供の世話をすることの一部として必要なことです。
マスクができない小児が咳で排出する飛沫や、感染性分泌物が排泄されています。「(子供は感染させづらいから)手を洗う必要性は低い」とガードを下げてしまった家族の手に付着し、感染が成立してしまう機会が頻繁にあった可能性があります。
家族はどう対応すべきか?
これらのデータの真の課題は、COVID19に感染した乳幼児がいる家族に何をアドバイスすべきかということかもしれません。
病気の幼い子供がいる家庭で、マスクを着用し、継続的に手を洗うということは考えにくいです。
親は病気の幼い子供を常に抱きしめてなだめます。
兄弟姉妹は、泣いている弟や妹の気を引くために、おどけたり、おもちゃを使ったりするでしょう。
病気の乳幼児がいる家庭を守るためには、対象となる家族全員にワクチンを接種することが必要です。ワクチンで保護されているので、秋になって鼻水が出てきても、家族は怖がる必要はありません。
考察と感想
デルタ株の出現や、検査の拡充もあり、これまでと状況がやや変わってきたようです。また、これまでの研究結果も、小児は相対的に検査数が少なく、データもどこまで信頼して良いのかと言った懸念も少しあるのでしょう。
今、大人ができることは、ワクチン接種をすることに尽きるのでしょう。
子供の感染に備えて、家庭内での感染を防ぐため、重症化を防ぐためという意味合いが強いですね。
まとめ
今回の小児の新型コロナウイルスの論説では、乳幼児の感染リスクは低いが、周囲への感染させる可能性は高い点、10代の感染リスクは乳幼児より高い点、ワクチン打てる家族は打ちましょうという内容でした。
Dr. KIDの執筆した書籍・Note
医学書:小児のかぜ薬のエビデンス
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/12/08 01:43:13時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
医学書:小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
noteもやっています