今回は、小児の慢性ITPにおいて、診断後の経過や治療の推移を報告した国際研究を紹介します。
ITPはかつて特発性血小板減少性紫斑病 or 免疫性血小板減少性紫斑病、その後、免疫性血小板減少症と呼び名が変わっています。
研究の概要
背景・目的
脾臓摘出は、重症または難治性のITPの小児および成人に対する効果的な方法である。
しかし、小児患者に関するデータは限られている。
方法
25カ国・57施設から68人の大陸間小児ITP研究グループ (ICIS) の研究者が脾臓摘出術の登録に参加した。
153人の患者のデータを提出し、その中の134人は脾臓摘出を行われており、このデータを基に分析した。
結果
脾臓摘出時の年齢中央値は11.8歳 (2.7~20.7歳) であった。
脾臓摘出後の追跡期間の中央値は2.0年(範囲 0.1~4.5年) であった。
脾臓摘出前のワクチン接種は21人の子供 (15.7%) では行われていなかった。
開腹および腹腔鏡下脾臓摘出術を、それぞれ67人および65人の評価可能な小児で実施した。手術手技は2人の子供では報告されていなかった。
脾臓摘出に対する即時の血小板反応は、113人の患者 (86.3%)は完全寛解、12人(9.2%)は部分寛解を認めた。
反応者の80%はその後4年間にわたり、反応状態を維持した。
年齢が高い、 ITPの罹患期間が長いおよび男性は完全寛解と相関した。
脾臓摘出後の敗血症は7人の患者で報告され、いずれも致死的な転帰ではなかった。敗血症の発症率は、7/225.2 person-years = 0.031 sepsis per person-yearという計算になるようです。
しかし、敗血症は参加施設で異なる定義がなされている点は留意すべきである。
結論
脾臓摘出術は小児ITPに有効であるが、管理は施設によって大きく異なる。
これらの登録データは、脾臓摘出の適応およびタイミングを評価するための将来の臨床試験の基礎として役立つ可能性がある。
考察と感想
この研究は25か国、57施設において行われたようですね。日本のデータも含まれていたようです。
In children, splenectomy is also an effective procedure, but it is associated with an increased infectious risk, particularly due to encapsulated bacteria, such as pneumococci, Haemophilus influenzae type b, and meningococci.
Thus the American and British ITP guidelines recommend deferral of splenectomy for at least 12 months [4,5].
British Committee for Standards in Haematology General Haematology Task Force. Gidelines for the investigation and management of idiopathic thrombocytopenic purpura in adults, children and in pregnancy. Br J Haematol 2003;120:574–596.
George JN, Woolf SH, Raskob GE, et al. Idiopathic thrombocytopenic purpura: A practice guideline developed by explicit methods for the American Society of Hematology. Blood 1996; 88:3–40.
あくまでもイギリスのガイドラインになりますが、少なくとも12ヶ月以上はITPが持続している患者に対して脾摘を推奨しているようですね。
診断時の年齢の中央値が9.5歳、脾摘が行われた時点の中央値が11.8歳ですので、おおよそになってしまいますが2年くらいのインターバルはありそうで、かねがね過去の研究結果と一致している印象です。
ワクチン | 接種率 |
肺炎球菌 | 82.8% |
Hib | 50.8% |
髄膜炎菌 | 48.5% |
著者らは、何らかのワクチン接種を受けていたのは84.3%で、全くワクチンをうけていなかったのは15.7%と述べています。
94%は脾臓摘出後に予防的な抗菌薬を投与されていたようです。さらに、毎日の予防内服は60.5%が受けていたようです。
まとめ
今回は、慢性ITPで脾臓摘出を受けた小児の経過をみた国際的な研究です。
脾摘後は95%で血小板数が改善していたようです。
脾摘後の敗血症の発症率は3/100 person-yearsと推定されています。
Dr. KIDの執筆した書籍・Note
医学書:小児のかぜ薬のエビデンス
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/10/12 23:26:46時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
医学書:小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
Noteもやっています