Cancer Epidemiology (がんの疫学)

Cancer Epidemiology (がんの疫学)(24)| がんとスクリーニングについて

前回までは職業や大気汚染とがんについて簡単に解説してきました。

今回はがんとスクリーニングについて解説していこうと思います。

一次、二次、三次予防について

まずは一次、二次、三次予防について簡単に説明しましょう。

一次予防は、危険因子に暴露するのを予防して、がんの発症そのものを予防するのが目的です。

二次予防については、スクリーニングをして、早期診断し、治療をすることが目的です。

三次予防については、有効な治療をして、予後やQOLを改善させることです。

かつてから「スクリーニングは早期発見ができ、生命を救う」と考えられていましたが、現在ではスクリーニングにもメリットとデメリットがあると言われてきました。

例えば、子宮頸がんのスクリーニングは、早期発見し早期治療することで子宮頸がんによる死亡率を低下させるのに非常に有効でした。

一方で、PSAを使用した前立腺癌は、スクリーニングをルーチンに行うと、過剰に前立腺癌を診断し、不必要な治療をしてしまうため、有益どころか有害である可能性が示唆されています。

このため、スクリーニングの評価をするためには、メリットとデメリット、そしてそれにかかるコストも考慮する必要があります。

がんのスクリーニングについて

がんのスクリーニングの主な目的ですが、

  •  がんによる死亡率を低下させる
  •  がんに関連した合併症を減らす
  •  がんに関連したコストを減らす

が挙げられます。このためには、

  •  疾患の特徴を理解し
  •  適切な母集団をスクリーニングし
  •  擬陽性を減らし
  •  有効な介入をし
  •  死亡率やコストを減らす

といったステップを踏む必要があります。

スクリーニングに関与するバイアス

スクリーニングに関連したバイアスはいくつかあり、有名なものは:

  •  Healthy volunteer bias
  •  Lead-time bias
  •  Length-biased sampling
  •  Overdiagnosis

があります。

Healthy volunteer bias

Healthy worker effectと類似していますが、healthy volunteer biasという考え方があります。スクリーニングに参加する人は健常であるため、そうでない人と背景が異なりバイアスが生じる現象を言います。

Lead-time bias

Lead time biasは、早期発見によって見かけ上、生存期間が長くなってしまう現象を言います。
死亡するタイミングが同じでも、早期発見によって発見・治療後の生存期間が長く見えてしまう現象です。

Length-biased sampling

スクリーニングは周期的に行われますが、この周期によってはバイアスが生じることがあります。例えば、同じがんでも

  •  非常に緩徐に進行する腫瘍
  •  急速に進行する腫瘍

が混在する場合、非常に緩徐に進行する腫瘍はスクリーニングでは捉えやすいため、予後の良い腫瘍ばかりを、スクリーニングされたグループで選んで治療してしまうことがあります。

スクリーニングの例

ここからは、実際にスクリーニングの例について解説して行きたいと思います。

子宮頸がん

子宮頸がんですが、

  •  Pap smear

を利用したスクリーニングが普及して、前がん病変の治療を早期にでき、子宮頸がんによる死亡率を70%ほど減少させた実績があります。

肺がん

肺ガンのスクリーニングに関してはレントゲンによる有効性は否定的でしたが、近年は低用量CTの出現もあり、有効性が示唆された論文も出ています。

ただ、このCTも全例に行うべきというわけではなく、以下のように限られた条件になります:

  •  55-74歳で健常
  •  喫煙者 or 過去に15年以上喫煙歴あり
  •  年に30箱以上の喫煙
  •  リスクとメリットを理解している
  •  スクリーニングやその後の治療ができる病院にアクセス可能

などがAmerican cancer societyから推奨されているようです。

おわりに

今回は疫学から見たがんのスクリーニングについて簡単に解説してきました。

スクリーニング=早期発見・早期治療でメリットあり、と単純化せず、メリットとデメリット、そして研究によってはバイアスが入る余地があることを知っておいた方が良いでしょう。

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。