科学的根拠

小児で乳酸菌(Lactobacillus GG)は急性胃腸炎に有効か アメリカ編

  •  救急外来に受診した小児において、乳酸菌(Lactobacillus GG)は急性胃腸炎に有効か?

という問いかけに答えている、こちらの研究をピックアップしました。
アメリカのニューヨークで行われた研究のようですね。

今回の研究ではLactobacillus GG (LGG)が使用されていますが、過去の研究でもよく使用されていたようです。
対象となった疾患はロタウイルス性胃腸炎です。

この研究がされる前(つまり2008-9年より前)は、主に入院患者へのプロバイオティクスの使用がほとんどで、外来患者へそのまま一般化してよいのか疑問視されていました。

そこで今回の研究がされたようです。

研究の方法

今回の研究は二重盲検ランダム化比較試験が、2008-2009年、アメリカのNYで行われたようです。

  •  生後6ヶ月〜6歳
  •  過去24時間で2回以上の下痢
  •  外来患者
  •  7日以内の下痢、血便なし、抗菌薬の使用なし
  •  慢性疾患なし
  •  乳製品に対するアレルギーなし

が対象となっています。治療は、

  •  治療あり:Lactobacillus GG (LGG)
  •  プラセボ:イヌリン

を使用しています。

アウトカム

研究のアウトカムは、

  •  5日後に正常な便に戻ったか
  •  正常便に戻るまでの時間
  •  保護者への負担(下痢のケア:通常の生活にもどれるまで)
  •  再受診率

などをみています。

研究結果と考察

最終的に129人が研究に参加し、

  •  乳酸菌(LGG):63人
  •  プラセボ:66人

が解析の対象となっています。

年齢、嘔吐の頻度、発熱にはやや偏りがあるようにみえます。

Dr.KID
Dr.KID
Table 1は、inference statisticsではないので、P-valueは基本的に必要ありません。

アウトカムについて:患者全体

  乳酸菌 プラセボ P値
下痢の期間 60h 74h 0.37
下痢の回数 5.0 6.5 0.19
生活への影響
(なし)
100% 92% 0.21
再受診 13% 17% 0.74

乳酸菌製剤を使用したほうが、下痢の期間はやや短く、回数も少ない傾向にはありましたが、統計学的な有意差はありませんでした。

また、乳酸菌グループのほうが5日後の日常生活への影響が少なく、再受診率も低かったですが、統計学的な有意差はありません。

サブグループ解析:2日以上の下痢症状のある患者

対象を下痢が2日以上続く患者に限定すると、以下のようになりました。

  乳酸菌 プラセボ P値
下痢が回復
(5日目)
79% 58% 0.04
下痢の期間 51h 74h 0.02
下痢の回数 3.5 7 0.02
Dr.KID
Dr.KID
何人がこの解析の対象になったのか、明記されてませんでした。

サブグループ解析:12ヶ月未満の患者

対象を12ヶ月未満の患者に限定すると、以下のようになりました。(n = 38)

  乳酸菌 プラセボ P値
下痢の期間 55h 65h 0.90
下痢の回数 8 6 0.7

下痢の期間に関しては似たような傾向にありましたが、統計学的には優位差はありませんでした。

考察と感想

プロバイオティクスの研究でプラセボを置いていないRCTも複数みかけたのですが、こちらの研究はしっかりとプラセボを置いていました。
統計学的な有意差はないものの、全体の傾向としてプロバイオティクスを使用したほうが、下痢の期間はやや短いです。

Dr.KID
Dr.KID
統計学的有意差なしは必ずしも臨床的に無効を意味するわけではありません。

特に下痢が2日以上続いている方を対象にすると、より差が顕著になっている印象です。
飲み始めるタイミングが重要なのか、あるいはすぐに治ってしまうような方を除外することで効果がはっきりと確認できたのでしょうか。

一方で、乳児を対象にすると、やや有効性が曖昧になっている印象もあります。

この研究の問題点としては、やはり胃腸炎の原因となる病原体がはっきりしない点でしょう。
著者らも「過去の研究はロタウイルスを対象にしたものが多い」とは言いつつも、この研究ではどのウイルスをみたのか、細菌をみたのか、そのあたりの差別化がしっかりとできていないです。
ただ、病原体の確認にも多大なコストがかかるため、仕方がない面がある点も留意しておきましょう。

まとめ

今回の研究は、アメリカ・NYの小児の救急外来で、6ヶ月〜6歳の小児を対象に、乳酸菌が胃腸炎に有効かを確認しています。

2日以上続くような下痢を対象にすると、下痢の期間短縮(1日ほど)・回数の減少をはっきりと認めています。
一方で、全ての患者を対象にしたり、乳児のみを対象にすると、似たような傾向にはあるものの、統計学的な有意差はありませんでした。

病原体については精査されておらず、一般化には注意が必要と思います。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。