科学的根拠

アボリジニーの小児の下痢に、プロバイオティクスは有効か?

今回はこちらの論文をピックアップしました。オーストラリアのアボリジニーを中心に行われたプロバイオティクスの研究です。

参考文献

Ritchie BK, et al. Efficacy of Lactobacillus GG in aboriginal children with acute diarrhoeal disease: a randomised clinical trial. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2010;50:619-24

ロタウイルス感染に対するプロバイオティクスの有効性は多数検証されていますが、オーストラリア北部のアボリジニーの小児での有効性は不明なままです。

というのも、感染症は原因となる病原体は地域毎に異なりますし、プロバイオティクスの必要性などは腸内の常在菌叢によっても異なりますので、その土地で有効か否かを検証する必要性があります。

今回の研究はオーストラリアの北部のある地域に集簇している3万人のアボリジニーを母集団と想定して、研究が行われたようです。

研究の方法

アボリジニーの小児を対象にランダム化比較試験が行われ、

  •  4ヶ月〜2歳で胃腸炎で入院
  •  アボリジニーの小児
  •  慢性疾患がない
  •  酸素投与の必要がない

などを対象に行われています。治療は、

  •  Lactobacillus casei strain GG: 5 x 10^9 CFU
  •  プラセボ

のいずれかをランダムに割付ています。

プラセボには、cellulose microcrystalline powderを使用しています。

アウトカム

アウトカムは、

  •  スクロース呼吸検査(1 vs. 4日後)
  •  下痢の期間
  •  下痢の回数

などを指標としています。

スクロール呼吸試験は、小腸の吸収能の変化の指標として使用されたようです。

研究の結果と考察

最終的に64人の患者が参加し、33人がプロバイオティクス、31人がプラセボを割り当てられました。

平均年齢は9ヶ月、やや男児の方が多い印象です。
統計学的な有意差は無いものの、入院まで下痢の期間はプロバイオティクスの方が平均して1.3日ほど短いです。

胃腸炎の原因となった病原体の内訳は以下の通りになります:

左が治療群、右がプラセボ群になります。

Dr.KID
Dr.KID
統計学的な有意差は無いものの、プロバイオティクスグループの方がやや不利な印象を受けてしまいました。

消化吸収能について

13C-SBTを試行して、小腸の消化吸収能を確認しています。

Probiotics あり なし P値
1日 2.3 2.8 0.41
4日 2.9 3.7 0.39
0.6 0.9 0.68

ランダム化をした割に、ベースラインの値が大きくずれているので、あまり信用できる結果では無いと感じてしまいました。

下痢の症状について

下痢の症状は以下の通りになります:

Probiotics あり なし P値
下痢の期間 52.4h 51.2h 0.97
下痢の回数 11.8 13.1 0.61
 1日目 5.4 5.9 0.59
 2日目 3.3 4.7 0.047
 3日目 2.9 3.3 0.63
 4日目 1.5 2.3 0.32
下痢のスコア 21.3  23.9 0.61

です。

全体としてあまり大きな差はなさそうですね。
強いていうと、プロバイオティクスを使用したグループの方が、2日目に下痢の回数が1.5回ほど少なくなっています。

こちらは著者らが提示したKaplan Meier曲線です。治療グループとプラセボグループで、曲線はほぼ一致しており、あまり有効性を示唆するグラフではなさそうですね。

考察と感想

今回はオーストラリアのアボリジニーの小児を対象としてプロバイオティクスの有効性を検証しましたが、臨床的に意味のありそうな有効性は示唆されませんでした。

一方で、懸念点も散見されましたので記しておこうと思います。
例えば、ランダム化の失敗です(randomization failure)。

入院までの下痢の期間を見ると明らかなのですが、治療群とプラセボ群で1日ほどの違いがあります。
1日というと、ちょうどプロバイオティクスの有効性が確認できる日数ですから、研究に与えるインパクトは大きいと感じています。
また、それを反映したためか、小腸の吸収能の検査もベースラインが整っていません。

ランダム化を失敗した場合にどうするかですが、基本はそれでもそのまま解析をするのは基本路線です。ランダム化は計測された因子も、計測されていない因子も対処してくれています。ですので、まずはこの両者のバランスを崩さないように、そのまま解析するのが1つです。

ですが、それだけで終わってしまうのも無味乾燥な気がします。
対処方法はいくつかありますが、例えば回帰分析で対処しきれなかったと思われる交絡(今回で言えば、入院前の下痢の期間)を対処したり、サブグループに分けて解析する必要があります。
注意点としては、サンプル数が少ないと回帰分析や層別化で統計学的な検定力を失ってしまうことです。

まとめ

今回の研究は、オーストラリアのアボリジニーの小児を対象にプロバイオティクスの有効性を検討しています。
胃腸炎に対してプロバイオティクスの有効性ははっきりとは認められませんでした。

しかし、ランダム化の失敗が示唆される箇所もあり、プロバイオティクスのグループがやや不利だったのかもしれません。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。