薬剤疫学

薬剤疫学と歴史について [薬剤疫学 (1)]

“Pharmacoepidemiology is the study of the use of and the effects of drugs in large numbers of people.”  (Strom BL. Pharmacoepidemiology 3rd edition. 2000)

薬剤疫学(Pharmacoepidemiology)は「人の集団における薬物の使用とその効果や影響を研究する学問」と定義されています。

臨床薬学に疫学的な方法論を応用した学問であり「薬剤疫学 = 臨床薬学 x 疫学」と解釈することができます。

薬剤疫学に関して、実は長い歴史があります。まずは歴史を解説してみようと思います。

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薬剤疫学の歴史

薬剤疫学と関連する歴史上の出来事は多数ありますが、代表的なものをあげると上記のようなイベントがあります。

もっとも古いものとして、James Lind1の報告があげられます。こちらは大航海時代に、長期距離を航海する際に、船員が壊血病(Scurvy)で死亡するケースが多かったです。James Lindがこの予防に様々な方法で検証したところ、柑橘類(レモン・オレンジ)が有効であることが示唆されました。のちに壊血病はビタミンC欠乏が原因であると分かったことで有名です。

1796年には、Edward Jenner2が、牛痘ウイルスを使用した種痘を利用することで、天然痘に対する免疫を獲得で来ました。のちに分かったことですが、天然痘ウイルスは牛痘ウイルスと同じポックスウイルス科にいて、DNA塩基配列も非常に類似していたようです。

近年の方向としては、McBridge WG3による「サリドマイドと催奇形性」の報告があげられます。サリドマイドは1957年にドイツをはじめ世界各国で市販され、「つわり止めや睡眠薬」として宣伝・発売されていました。

しかし、この薬を妊娠初期に内服すると胎児の四肢が短くなる・耳が小さくなるといった催奇形性の強い薬であることが判明しました。その後、1960年代にサリドマイドは発売が中止されました。

現代の医薬品開発と規制

現代では、政府が医薬品開発プロセスに関与するようになり、医薬品の規制は発展してきました。

医薬品開発を成功させるためには、以下のことを実証する実質的な証拠が必要です:

  • 安全性
  • 有効性
  • 品質(製造)

また、適切なマーケティング手法にも大きな注目が集まっている。例えば、効果とリスクの公平なバランスが保たれたマーケティングをしなければなりません。これは、消費者向け広告でも同様です。

医薬品開発のプロセス:「医薬品開発ライフサイクル」

医薬品開発において市販前と市販後に分けて考えると良いでしょう。

臨床で使用する前(市販前)には、

  • 投与量の範囲
  • 薬物動態(PK)/薬力学(PD)

の調査が必要となります。臨床試験はPhase I〜IIIに分けられており、

  • 至適投与量の同定
  • 潜在的な毒性の特定
  • 有効性の確立;安全性の確保

などを調査する必要があります。

さらに市販後も調査を進める必要があります。RCTなどでは分からなかった有害事象の報告を認めることがあるためです。

市販後調査はPhase IV臨床試験とも言われています。第4相試験、すなわち市販後試験の目的は、政府によって承認された後も、その薬剤についてさらに詳しく知ることです。第4相試験では、研究者は承認された薬剤のリスク、ベネフィット、 「現実の(real-world)」状況での最適な使用法に関して情報を収集します。

これらの試験には、異なる用量または投与スケジュール、他の病期または他の疾患群と年齢群、コスト研究、QOL (quality of life) の研究、長期にわたる薬物の使用に関する試験も含まれます。

この一連の流れを「医薬品開発ライフサイクル」と呼びます。

Food & Drug Administration Amendment Act (FDAAA)

アメリカにおける歴史になりますが、FDAAAは、2007年には、ブッシュ大統領が2007年食品医薬品局修正法H.R.3580に署名して成立した。この新法によって、FDAに非常に重要な権限を追加しています。例えば、以下のような点があります:

  • Prescription Drug User Fee Act (PDUFA) :処方薬使用料法
  • Medical Device User Fee and Modernization Act (MDUFMA):医療機器使用料及び近代化法
  • Best Pharmaceuticals for Children Act (BPCA) :小児用医薬品適正使用法
  • Pediatric Research Equity Act (PREA):小児研究公正法

PDUFA/MDUFMAによって、新薬や新規デバイスの審査を実施するために必要な追加リソースを確保することをFDAに保証しています。

BPCA/PREAは、小児に対する治療法の研究と開発を促進することを目的として制定されています。

さらに、アメリカ政府は医薬品の市販後安全性調査に関する権限をFDAに与えています。これにより、FDAは製薬会社に試験の実施を命じることができ、リスク評価・リスク軽減のための戦略(REMS, Risk Evaluation and Mitigation Strategy)を要求し、医療情報保有者の電子データを活用した医薬品監視のための監視システムの開発を求められるようになりました。

市販後の医薬品安全性監視の強化

企業には製品のREMS(リスク評価・リスク軽減のための戦略)の構築が求められています。医薬品ガイドには、FDAが承認した重篤な有害事象の回避に役立つ情報を含む必要があります。

さらに、新規薬剤は、ベネフィットがリスクを上回ることを確認しなければなりません。今後、企業は、新薬を投与される患者の登録簿作成を要求されるかもしれません。

また、適応外使用の最小化や、臨床転帰、副作用などのモニタリングを支援することも求められています。

FDA Sentinel System

アメリカでは、FDA Sentinel Systemという新しいシステムが構築されています4。これは、FDAが管理する製品を監視する新しいActive surveillanceシステムです。

このシステムでは、様々な医療情報とリンクされ、さらに自動化されており、持続可能なシステムです。例えば、保険会社の支払い申請データベース ( administrative claims database)、電子カルテなど、複数の情報源からの医療データを活用し、迅速な安全性の関しるシグナルを検出し、その後の検証を可能にする設計です。

おわりに

今回は薬剤疫学の歴史について簡単に解説してきました。次回は、薬剤疫学の役割について、説明していければと思います。

参考文献

  1. JAMES LIND; bicentenary of the publication of the first edition of his treatise on scurvy. J R Nav Med Serv. 1953;39(4):198-203. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/13109826.
  2. Willis NJ. Edward Jenner and the eradication of smallpox. Scott Med J. 1997;42(4):118-121. doi:10.1177/003693309704200407
  3. McBride W. Health of thalidomide victims and their progeny. Lancet. 2004;363(9403):169. doi:10.1016/S0140-6736(03)15279-8
  4. Platt R, Carnahan RM, Brown JS, et al. The U.S. Food and Drug Administration’s Mini-Sentinel program: status and direction. Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2012;21:1-8. doi:10.1002/pds.2343

 

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Dr-KID
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このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。