新型コロナワクチン接種がMIS-Cのリスクを低下させるか検討した研究はいくつかあるようです。今回、新しい研究を見つけたので、こちらに紹介します。
-
MIS-Cのリスクと臨床的特徴をオミクロン波以前、さらに予防接種歴で調査したデンマークの研究
-
MIS-Cのリスクは予防接種で90%ほど低下しています。
-
また、オミクロン流合後は、デルタ株などと比較してもリスクは低いようでした。
Holm M, Espenhain L, Glenthøj J, et al. Risk and Phenotype of Multisystem Inflammatory Syndrome in Vaccinated and Unvaccinated Danish Children Before and During the Omicron Wave. JAMA Pediatr.2022;176(8):821–823. doi:10.1001/jamapediatrics.2022.2206
2022年にデンマークから公表されたようです。
デンマーク小児において、オミクロン波発生前および発生中の多系統炎症性症候群のリスクと表現型、さらに予防接種の効果について [デンマーク編]
研究の背景/目的
小児の多系統炎症性症候群(MIS-C) は,小児および青年における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の重篤な症状である。
我々は,オミクロン株流行期におけるワクチン接種者と非接種者におけるSARS-CoV-2感染後のMIS-Cリスクを推定することを目指した。
さらに、MIS-Cのリスクと臨床的特徴をオミクロン波以前と比較することを目的とした。
研究の方法
この集団ベースのコホート研究では、デンマークの全18の小児科から0歳から17歳のMIS-Cの患者を前向きに調査した。 MIS-C 患者は、Omicronが95%以上の変種を構成していた2022年1月1日から2月1日の間にSARS-CoV-2感染後、2022年3月15日に診断されたものであった。
オミクロン株流行中のMIS-Cをオミクロン以前の波と比較するために、既報のデータを使用した。
小児および青年における推定SARS-CoV-2感染者(100万人あたり)のMIS-Cリスクを算出した。デンマークの COVID-19 サーベイランス登録から得られた検査室で確認された感染に 1.5~2.1 の乗数を適用して感染者数を推定した(表 1)。
すべての95%CIは、二項分布の正確法を用いて算出した。
MIS-Cのリスクをリスク比(RR)で比較し、フィッシャー正確検定を用いて算出した。患者特性の比較には両側Mann-Whitney U検定またはχ2検定を用いた。
研究の結果
小児および青年において583,618人の感染者数をみとめた。このうち、267,086人はワクチン接種者であった。
MIS-C患者は、ワクチン接種者では1名とワクチン非接種者では11名であった。
再感染と推定される31 516人のうち、MIS-C患者は発生しなかった。
Omicron waveでは、SARS-CoV-2感染後のMIS-Cのリスクは、ワクチン接種者と非接種者を比較すると前者が低かった(RR, 0.11; 95% CI, 0.01-0.83; P = .007)。
オミクロン波におけるワクチン未接種者のMIS-Cリスクは、デルタ波(RR, 0.12; 95% CI, 0.06-0.23; P < .001) およびwild-type波(RR, 0.14; 95% CI, 0.07-0.29; P < .001)に比べて低かった。
MIS-Cの表現型は、オミクロン波とオミクロン波前で類似していた。
結論
オミクロン波におけるSARS-CoV-2感染後のMIS-Cのリスクは、過去のSARS-CoV-2亜型と比較して大幅に低いことが分かった。このことは、系統的に異なるオミクロンは、免疫逃避が起こりやすいため、炎症が起こりにくいと考えられる。
考察と感想
オミクロンの波におけるMIS-Cのリスクは,ワクチンを接種した小児および青年では,ワクチン未接種に比べ,ブレイクスルー感染後に低いことが明らかになった.
MIS-Cに対する高いワクチン効果は、これまでDelta波でも確認されている。これは、ワクチンによって免疫系が調節され、SARS-CoV-2感染後に過剰な炎症を引き起こしにくくなることが原因であると考えられる。
この研究の主な限界は、母集団が小さいためにMIS-Cの症例が少なく、推定値が変動しやすいことである。また、真の感染者数を推定するために用いた1.5〜2.1倍という倍率は、不確実性を含んでおり、以前に米国の集団に対して用いられた倍率よりも低かった。このデンマークの集団ベースのコホート研究において,オミクロン感染後の MIS-C のリスクは,オミクロン以前の変異体と比較して大幅に減少し,ワクチン接種者におけるブレークスルー感染後の MIS-C のリスクは低いことが明らかになった.
オミクロン株において、MIS-Cのリスクが減少したこと、予防接種によってさらにそのリスクを軽減させる効果があることが示唆された研究と思います。
まとめ
MIS-Cのリスクと臨床的特徴をオミクロン波以前、さらに予防接種歴で調査したデンマークの研究でした。
MIS-Cのリスクは予防接種で90%ほど低下しています。また、オミクロン流合後は、デルタ株などと比較してもリスクは低いようでした。
Dr. KIDの執筆した書籍・Note
絵本:めからはいりやすいウイルスのはなし
知っておきたいウイルスと体のこと:
目から入りやすいウイルス(アデノウイルス)が体に入ると何が起きるのでしょう。
ウイルスと、ウイルスとたたかう体の様子をやさしく解説。
感染症にかかるとどうなるのか、そしてどうやって治すことができるのか、
わかりやすいストーリーと絵で展開します。
(2024/12/09 10:52:40時点 Amazon調べ-詳細)
絵本:はなからはいりやすいウイルスのはなし
こちらの絵本では、鼻かぜについて、わかりやすいストーリーと絵で展開します。
(2024/12/08 13:27:47時点 Amazon調べ-詳細)
絵本:くちからはいりやすいウイルスのはなし
こちらの絵本では、 胃腸炎について、自然経過、ホームケア、感染予防について解説した絵本です。
(2024/12/08 13:27:48時点 Amazon調べ-詳細)
医学書:小児のかぜ薬のエビデンス
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/12/09 01:48:08時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
医学書:小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
noteもやっています