ITP(免疫性血小板減少症)による出血の重症度の評価をどのように行うべきか、過去にも議論があったようです。
前回は、WHO、Bolton-MaggsとMoon、ITP Bleeding Scale、Buchananの使用した出血スケール、Mederiosらの出血スケール、1993年と2002年のBuchananのスケール、Laceyらのスケールを中心に解説してきました。
今回は、これらのスケールを批判的に吟味した論文を紹介しましょう。
- 2004年に発表されたITPのBleeding Scaleの批評
- 2002年のBuchananのスケールの評価が高い
Koreth R, Weinert C, Weisdorf DJ, Key NS. Measurement of bleeding severity: a critical review. Transfusion. 2004 Apr;44(4):605-17.
ITPはかつて特発性血小板減少性紫斑病、その後、免疫性血小板減少症と呼び名が変わっています。
Buchananの重症度スコア [1993]
Buchananらは、血小板減少症の成人において、出血の重症度を評価するために0~4の尺度を用い、PLT数と関連付けた。
この定義の弱点は、カテゴリーが非常に広く、さらに主観的であることである。重度の出血に対する記述の臨床的意義は様々であり、この記述は包括的ではないです。
その他
この指標は再現性の評価はされていません。
部位別の評価、全体の評価というのも行われておらず、皮膚の病変にフォーカスされています。
介入の基準はなく、主観的なカテゴリーという評価です。
一方で、新たな出血を前向き研究で評価した実績はあります。
Buchananの重症度スコア [2002]
ITPの小児において、24時間以内の出血の重症度を評価した。
この研究では、13人の同じグループが0から4のサブスケールを用いて部位別の出血(口腔/皮膚出血/鼻出血)の重症度を評価し、0から5のスケールを全身の出血に用いた。
その他
観察者間の一致およびPLT数と出血の重症度の間の関係も評価した。
また、出血の重症度はPLT数と逆相関した。
κ統計量を用い、部位別および全体の出血スケールに対する観察者間の一致を評価した。
評価者間一致は口腔出血の評価で最も高く(k=0.76)、皮膚出血の評価で最も低かった(k=0.37)。
後者の不一致の可能な説明は、新しい皮膚病変と古い皮膚病変を区別すること、点状出血の数を推定することの困難さであった。
この研究の強みは、以下の通りである:
- ITPで一般的にみられる出血の種類に対応するようデザインされている
- 皮膚出血よりも粘膜出血の方が重要視されている
- 評価者間変動およびPLT数と出血の重症度との関係について試験されている。
とはいえ、医師および看護師の評価の一部としてルーチンに使用されるのであれば、複数の観察者、ならびに異なる臨床経験をもつ観察者によるさらなる研究が必要であろう。
他に検討すべき可能性のある側面として、重大な出血のリスクを推定し、治療法を決定する上で、このようなスコアリングシステムの役割がある。
Blanchetteらの重症度分類
Blanchetteらも小児ITPにおける出血の重症度を前向き研究で定義した。
しかし、部位別および全体の影響は別々に評価されなかった。
出血は、出血部位、出血の進行および輸血の必要性を組み入れた特定の基準に従って、中等度または重度に分類した。
その他
この指標は再現性を評価しておらず、部位別に評価はされていません。
主観的で、2つのカテゴリーに大まかに分類するのみであるため、変化を捉えることができません。
Laceyらの分類
Laceyらは、成人の血小板減少症において、出血の重症度を評価するために0~4の尺度を用い、これをPLT数と関連付けた。
この定義の弱点は、カテゴリーが非常に広く主観的であることである。重度の出血に対する記述に関する臨床的意義は様々であり、この記述は包括的ではないという欠点もあります。
その他
成人の血小板減少症で使用されていたようです。
出血の重症度との関連性は評価されているものの、再現性の評価はされていないようです。
Bolton-Maggs and Moonの基準
小児ITPの症状の重症度に対処するため、 Bolton-MgtgsとMoonは臨床基準に基づく分類スキームを考案した。
これらの基準は明らかに臨床的に関連性があるが、定義はいくぶん広く、主観的な解釈が可能であり、比較的大きな臨床的変化にのみ感度がある。
その他
再現性の研究がされていないのは弱みです。
一方で、ITPで症状がよくでる部位を考慮している点は強みでしょう。
考察と感想
ほとんどは大まかな分類ですので、全体像をぱっと把握するにはよい指標なのかもしれません。
一方で、再現性の研究はなく、体全体の出血と局所での出血の区別がありません。
様々な指標をならべてみると、Buchananらの2002年の指標が群を抜いてる印象ですね。
まとめ
今回は1977年〜2002年までに発表されたITPの重症度の指標に関する批判的なレビューの紹介でした。
2002年のBuchananらの指標が最も優れている印象です。
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