小児科

妊娠中の喫煙・受動喫煙とADHDのリスク上昇の可能性【論文】

妊娠中の喫煙・受動喫煙とADHDの関連性を知りたい方へ

妊娠中の喫煙が胎児(お腹の赤ちゃん)に悪影響があるのは知っているけれど、実際にどのような病気に影響するのか、イメージしづらい。

あと妊娠中の喫煙が胎児に悪影響となる実例や科学的根拠とかあれば、ついでに知りたいと考えている方もいるでしょう。

そこで、今回はこちらの論文をピックアップしました。

妊娠中の喫煙あるいは受動喫煙とADHDのリスクを検討した論文です。

もちろん、ADHDの原因は数多くあり、喫煙はそのうちの1つにしか過ぎません。

また、妊娠中の喫煙や受動喫煙が胎児へ数多くの点で悪影響を与えますが、そのうちの1つが脳の発達です。(そのほかの要因については今回は触れませんが、ご容赦ください)

本記事では下記の内容を解説します。

本記事の内容

  1. 母喫煙と子のADHDの背景
    □ ニコチンと脳の発達
    □ 遺伝子が原因?
  2. 研究の方法
  3. 研究の結果と考察

本日紹介する論文は、アメリカ小児科学会の英文雑誌である”Pediatrics”に掲載された論文です。

多くの小児科医に読まれている論文を、解説を交えながらご紹介していこうと思います。

研究の背景について 

母の喫煙歴と小児のADHDはこれまでに複数報告されています。

観察研究からの結果ですので、例のごとく「相関なのか、因果なのか」という問題に直面しています。

解決策として最もシンプルなのはランダム化比較試験(RCT)になりますが、妊娠中の母親に無理にタバコを吸わせるのは、倫理的に明らかにNGです。このため、結局のところ、観察研究から因果関係を推定することになります。

観察研究から因果関係を推定する場合、

  • 生物学的な機序としてありえるか?
  • 交絡因子などバイアスの対処がどの程度なされたか?

などが非常に重要になってきます。

ニコチンと脳の発達について

タバコに含まれる成分として有名なのはニコチンですが、このニコチンが脳の発達に悪影響するかもしれないと言われています。

根拠として、動物実験レベルになりますが、子宮内の胎児がニコチンに暴露すると脳の発達が阻害されたと報告されています。

交絡因子として、遺伝的な影響

全てが遺伝するわけではないですが、ADHDは次世代に遺伝することがありますので、両親の遺伝的な素因も重要になってきます。

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例えば、上の図(DAG)のように、親の遺伝的な素因が交絡因子になっている場合、親の喫煙歴が子供に与える影響は「偽りの相関」となります。

つまり、親が喫煙しているとADHDになるわけではなく、

  • ADHDの親をもつと、子供もADHDになりやすい
  • ADHDの親は、喫煙者の傾向である

という2つの関係をみているに過ぎないのです。

因果関係なのか、(偽りの)相関なのかを確実に確かめる術はありませんが、交絡因子の影響の除外は1つの鍵になります。

今回の研究の目的

これまでの親の喫煙と子のADHDの発症の関連性をみた研究結果はバラバラであったため、今回はデンマークの出生コホートという大規模データを使用して再調査しています。

研究の方法

今回の研究では、1996年から2002年にかけて、デンマークの出生コホートに登録された84,803人が対象です。

保護者の喫煙歴を妊娠中に聴取し、その後にADHDの発症を確認しています。

研究の対象者

研究に参加したのは、

  • 保護者の喫煙歴を妊娠中に報告してた
  • 7年後に評価(SDQ: Strength and Difficulties Questionnaire)をうけた

を満たす小児と保護者になります。

調査した項目

調査した項目ですが、

  • 妊娠16週時点での喫煙状況
  • ニコチンの使用(ガム、パッチなど)
  • ADHDの診断:ICD-10, 投薬歴、SDQ

が中心です。

交絡因子の候補として、母の年齢、妊娠中のアルコール、社会的地位、親の精神疾患、こどもの性別、出産数を対処しています。

研究の結果と考察

84803人のうち2009人(2.4%)がADHDの診断をされました。

そのほかの特徴として、

  • 喫煙群は低所得の家庭が多い
  • 喫煙群は精神疾患を有する率が高い

と指摘されています。

保護者の喫煙とADHDのリスクについて

父母のどちらかが妊娠中に喫煙をしていると、こどものADHDのリスクは上昇していました。

父親の喫煙による受動喫煙より、母親が喫煙しているほうが、ADHDのハザードは高かったです:

  • 母のみが喫煙:HR 1.63(1.36〜1.94)
  • 父のみが喫煙:HR 1.29(1.14〜1.47)

母のニコチン使用とADHDについて

両親ともに非喫煙者の場合と比較して、母がニコチンを使用している場合、ADHDの危険性は上昇していました:

  • HR 2.28(1.48〜3.51)

本研究の感想

著者らが冒頭で述べていた、ADHDの遺伝的素因の影響については、今回の研究では残念ながら対処されていませんでした。

甘めに評価をすれば、社会的な因子や親の年齢、出産数などが対処されているので、遺伝的素因の影響の一部は統計学的に対処されているかもしれません。

一方、母の受動喫煙の影響をみた点は非常に有意義と考えます。

これは妊娠中に母がタバコを吸っていなくても、父が吸ってしまうと受動喫煙によるこどもの脳の発達に悪影響があるかもしれないからです。

まとめ

今回の研究では

  • 妊娠中の母の喫煙は、子供のADHDのリスクが60%ほど上がる可能性があります
  • 母の喫煙の影響より小さいですが、父の喫煙による受動喫煙でも30%ほどリスクが上がるかもしれません

著者らが最初に指摘されているように、遺伝的背景などの交絡因子の対処が不十分かもしれません。
しかし、母の喫煙や受動喫煙による悪影響を考慮すると、やはり不要なリスクは控えた方が無難と思います。

 

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ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。