小児科

【論文】ビタミンKの予防投与を拒否する因子の検討

今回はこちらの記事をピックアップしました。ここ最近の日本でも話題になることがあるビタミンKの拒否について解析した論文です。

アメリカ小児科学会(AAP)から出版されている雑誌に掲載されています。

前回、こちらの記事でビタミンKを投与する医学的な理由について簡単に記載しています。

 簡単にまとめますと、赤ちゃんが生まれてすぐは、体内のビタミンKの貯蔵が少なく、非常に出血が起こりやすい状態です。

この出血傾向のことを、ビタミンK欠乏性出血(VKDB)といわれるのですが、

  • 早期:出生後の第1週で臍帯や消化管出血が多い
  • 後期:出生後の第2週以降で頭蓋内出血が多い

という傾向があります。

例えば、ビタミンKを服用しなかった場合(つまりVit.Kを拒否した場合)、

  • 早期のビタミンK関連出血は0.25〜1.7%

で起こるといわれています。また、

  • 後期のビタミンK関連出血は0.01〜0.08%(10万出生で10.5〜80人)

とも報告されています。

確率だけでみると低く感じるかもしれませんが、リスク比で見ると、100倍ほどリスクが上昇してしまいます。しかも後遺症が残ってしまう可能性のある出血です。この現状を、もどかしく思う医療者が多いでしょう。

  

ビタミンK投与の歴史ですが、1961年にアメリカで開始され、このビタミンK欠乏性出血の頻度が激減しました。

その一方で、世界各国でビタミンK予防投与を拒否する保護者が増えているのが問題となっています。例えばニュージーランドでは1.7%が、カナダでは0.5%がビタミンKの投与を拒否しています。

今回のこちらの研究ではアメリカ国内におけるビタミンKを拒否する因子の検討を行っています。つまり、どのような人がビタミンKを拒否するのか?、という疑問に答えています。

研究の方法

アメリカ23州、35の医療施設から健常出生児のデータが抽出されています。

まず、全データのうちワクチン拒否する割合を計測しています。
次に、Risk-Set samplingという手法を使ってCase-Control研究を行っています。

Risk Set Samplingについて

Risk-Set samplingはCase-Control Studyにおいて、コントロールを抽出する際によく使用する手法です。

サンプル方法は非常にシンプルで、ケース(ビタミンK欠乏性出血)が出現する毎に、コントロールをあらかじめ決められた人数を選ぶ手法です。

同時にマッチングをすることもありますが、今回の研究では「同じ医療施設」という施設のみマッチングが行われたと思われます。

このようにして、「ケース:コントロール=1:5」という状況を作り出しています。非常に簡単に模式化すると、以下のようになります:

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評価した項目

評価項目として、

  • 出産した時の週数
  • 性別
  • 分娩方法
  • 医療保険
  • 人種
  • 栄養(完全母乳、混合、人口)
  • 母親の年齢
  • そのほかの予防措置(点眼とB型肝炎ワクチンの接種)

をみています。

研究結果と考察

アメリカ全土のうち、35州、23施設が研究に協力しました。

全体として10万2878人が研究対象となりました。

このうち、ビタミンKの予防投与を拒否した人は638人(0.6%)でした。

過去のニュージーランド(1.7%)より低く、やカナダ(0.5%)と似たような値です。

過去、テネシーで行われた研究では 3.0%だったため、アメリカ国内でも地域差があると思われます。

ビタミンKの予防投与拒否と関連した因子

ビタミンKの予防投与を拒否する因子を探索しています。結果は以下の通りでして、

  • 完全母乳(OR = 3.5; 95%CI, 2.1~5.5)
  • 白人(OR = 1.7; 95%CI, 1.2~2.4)
  • 女児(OR = 1.6; 95%CI, 1.2~2.3)
  • 出生週数(OR = 1.2; 95%CI, 1.1〜1.4)
  • 母の年齢(OR = 1.05; 95%CI, 1.02~1.08)
  • その他の予防措置の拒否(OR = 88.7; 95%CI, 50.4~151.9)

となります。

ビタミンK予防投与の拒否とその他の予防措置について

予防措置の拒否は出生後の

  • 抗菌薬の点眼
  • B型肝炎ワクチン

の拒否をいいます。

日本ではB型肝炎ワクチンは生後2ヶ月から開始していますが、アメリカでは出生直後に1回目を接種するのが一般的で、タイミングとしては予防措置としての点眼とほぼ同じです。

「(できるだけ予防措置はせずに)子供は自然に」という考えが根底にあり、このような結果になっているかもしれないでしょう。

これは、完全母乳栄養の女児のほうが、ビタミンK投与を拒否するオッズが高い点にも現れています。

過去の研究では、白人のほうが予防措置を拒否する率が高い、という報告もあり、一貫した結果となっています。

まとめ

ビタミンKは、赤ちゃんの重大な出血を予防するためにとても重要なビタミンですが、アメリカでは0.6%が拒否していました。

拒否する方の特徴として、

  • 予防措置も拒否する(点眼と予防接種)
  • 白人
  • 完全母乳栄養

などがあげられており、「より自然に」という考えの表れなのかもしれません。
ワクチンを含めてもそうですが、こどもが産まれる前に、様々な医療知識の教育を受ける機会が増えてもよいのでは、と考えています。

 

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ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。