科学的根拠

アンブロキソール(ムコソルバン®︎)と小児の肺炎による咳

小児の肺炎へのアンブロキソール(ムコソルバン®︎)の有効性を検討して研究を見つけましたので、まずはこちらから紹介しようと思います。

原著論文へのPubMedリンクはこちらです。

成人領域と比較して、小児において臨床研究が行われる機会は少ないです。そのため、小児の風邪薬のように既に広く出回っているものでも、実は有効性が不確かなものも数多くあります。
今回の研究は肺炎で入院した小児へのアンブロキソール(ムコソルバン®︎)の有効性を検討しています。貴重な論文です。

Dr.KID
Dr.KID
肺炎で入院した小児ですので、外来患者への一般化は注意しましょうね。

研究の方法

今回の研究は、イタリアで行われた他施設共同のランダム化比較試験(RCT)で、

  •  慢性疾患のない小児
  •  肺炎に罹患し入院した(レントゲンで確認)
  •  抗生剤を入院と同時に開始された
  •  12歳未満
  •  血沈 > 30 mm/hまたはCRP > 25 μg/ml

が対象となっています。
抗生剤はアモキシシリン(5歳未満)またはエリスロマイシン(5歳以上)が使用されています。

  •  アンブロキソール投与
  •  プラセボ(偽薬)投与

の2群に分けて、アウトカムを評価しています。

アウトカムの評価

アウトカムの評価として、

  •  咳
  •  呼吸困難
  •  レントゲンの所見(0〜3点:なし〜重症)

を行なっています。

研究の結果と考察

120人が対象です。レントゲン検査は人実施されていなかったため残りの115人が研究対象となっています。
患者背景は以下の通りです:

  アンブロキソール プラセボ
N 60 60
年齢    
< 1歳 11 12
1-2歳 9 11
2-5歳 19 20
5-12歳 21 17
性別    
28 38
32 22
体重 17.1 kg 
(1.08)
16.2 kg
(1.06)
Dr.KID
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年齢、性別、体重はどちらも同じくらいです。

アンブロキソールの有効性の検討

アンブロキソールの有効性の検討は以下のテーブルのようになります。

少し数字が並んでいるので分かりづらいかもしれません。

最初の列は咳が改善も完治もしなかった人の数です。少ない方が良い結果と言えます。
アンブロキソールグループの方が、改善や完治できなかった人の割合が低い傾向にありますが、統計学的な有意差はありませんでした。
一方、咳の完治なしだけに絞ると、同じ傾向で、かつ統計学的な有意差があります。

Dr.KID
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どうやらアンブロキソールを使った方が、咳の症状の改善率は良さそうに見えます。

咳のスコアを見てみましょう。
治療開始3日目と10日目ともにアンブロキソール群の方が咳のスコアが低いです。
これはアンブロキソール群の方が、咳の重症度が低い、つまりよく軽快している可能性があります。

Dr.KID
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アンブロキソールを使った方が咳が軽くなるのが早いかもしれない。

副作用はどちらのグループも認めませんでした。
頻回に起こる副作用はそれほどないのかもしれないですね。

疫学者の視点から

どうやらこの研究だけを見ると、アンブロキソールは咳の軽快がスムーズになるのかもしれません。
しかし、いくつかの点は注意した方が良いと思います。

例えば咳のスコアの差です。
4点満点で評価をしていますが、このうち0.25点や0.15点の差が臨床的にどのくらい意味があるのかは、やや不明瞭です。
過去に読んだ文献(コデインやデキストロメトルファンの研究)では、「1点の差を臨床的に有意ととる」としていました。

Dr.KID
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「統計学的な有意差 ≠ 臨床的な有意差」ですので、あまり過大評価をするのは避けたほうが良いでしょう。

あとは一般化の問題です。
今回の症例はあくまでも肺炎で入院した患者を対象にしています。
外来での風邪とは重症度が明らかに異なるので、この結果を理由に外来処方が正当化されるわけではありません。
重症な患者には有効であったけれど、軽症な患者には有効性は確認できなかった、という例はたくさんあります。このことを疫学用語で「Effect measure modification(効果修飾)」と言います。

Dr.KID
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研究の5W1Hを把握することは大事。

小児科領域で身近な例で言えば、川崎病のステロイドに言えます。
重症な川崎病であれば有効性を確認されていますが、全ての患者では有効性を確認できなかった研究も多数あります。そのため、ハイリスク・グループを選んでステロイドを投与するという戦略になっています。

まとめ

アンブロキソール(ムコソルバン®︎)は肺炎で入院した小児には有効かもしれないという結果でした。
1つのRCTで、本当に有効であるかは判断できないため、他の研究結果も探してみようと思います。

一方で、外来患者への一般化や、研究で認めた有意差が実臨床に即しているかも注意した方が良いと考えています。

Dr.KID
Dr.KID
1つのRCTだけで「真に有効性あり」と言い切らないことも大事。

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。