科学的根拠

プロバイオティクスはロタウイルス以外の小児の下痢に有効か?

今回はこちらの研究をピックアップしました。

2007年にJournal of Clinical Gastroenterologyで出版された研究です。

プロバイオティクスの研究は1990年代や2000年代前半にも盛んに行われてきました。
しかし、多くの研究は下痢が発症して1週間以内のものです。
つまり、下痢が出て比較的早期にプロバイオティクスを投与すると有効かもしれない、といった趣旨の研究になります。

こちらの研究は、2週間以上持続する小児の下痢を対象に、プロバイオティクスの有効性を見ています。
さらに、下痢の原因となった病原体毎に分けて、有効性を検証しています。

研究の方法

2003年〜2004年に、インドの小児で研究がされ、対象となったのは、

  •  14日以上の下痢があり、入院が必要となった
  •  便のpH < 5.5
  •  そのほかの全身性の疾患はない
  •  重篤な合併症がない

です。治療は経口補水液に加えて

  •   LGG (Lactobaciilus rhamnosus GG)
  •   追加なし

のいずれかとなっています。

アウトカム

研究のアウトカムは、

  •  便の頻度
  •  下痢の期間
  •  嘔吐の期間
  •  入院日数

などを見ています。

研究結果と考察

最終的に225人が解析の対象となりました。

  •  平均4歳
  •  男女比はおよそ10:9

でした。

下痢の頻度について

入院し治療開始後の下痢の頻度の推移は以下の通りです

プロバイオティクス あり
n = 117
なし
n = 118
1日目 10.4 10.8
2日目 11.3 11.1
3日目 10.4 10.5
4日目 5.8 10.0
5日目 5.2 10.3
6日目 1.0 8.4
7日目 0.9 7.5
8日目 0.9 6.9
9日目 1.0 4.3
10日目 0.8 1.3

入院4日目以降から、プロバイオティクスを使用したグループの方が下痢の頻度が急に少なくなっている印象ですね。
数字を並べても分かりづらいと思うので、グラフにしてしまいましょう。

その他のアウトカム

その他のアウトカムを見てみましょう:

プロバイオティクス あり なし
下痢の期間 5.3日
(2.1)
9.2日
(2.8)
嘔吐の期間 2.0日
(1.1)
1.9日
(1.2)
入院日数 7.3日
(1.6)
15.5日
(1.5)

下痢の期間と入院日数は、プロバイオティクスを使用した方がかなり短くなっていますね。

病原体毎にみた下痢の期間

細菌感染の内訳は以下の通りです:

プロバイオティクス あり なし
E. coli 12 10
Shigella spp 9 7
C. diff 6 8
E. histolytica 7 9
G. lamblia 5 8
Mixed infection 6 3

こちらは病原体毎にみた下痢の期間です。

プロバイオティクス あり なし
E. coli 5.8
(2.0)
5.3
(1.8)
Shigella spp 5.6
(2.2)
5.2
(2.0)
C. diff 3.2
(2.4)
8.0
(2.8)
E. histolytica 5.0
(2.2)
4.8
(2.0)
G. lamblia 5.6
(2.1)
5.4
(1.8)
Mixed infection 5.2
(1.9)
5.4
(1.8)

考察と感想

インドにおいて入院した小児で長期的に持続する下痢にもプロバイオティクスは有効そうな印象でした。2週間以上続く下痢ですが、胃腸炎そのものというより、胃腸炎後の吸収不良であったり、乳糖不耐症の影響もあるように感じます。プロバイオティクスが、消化吸収や乳糖の分解に一役を担っているのかもしれないですね。

一方で、ウイルス性以外、つまり細菌別にみるとC.diff以外では有効そうな印象がありませんでした。
胃腸炎にも様々な病原体が原因になりうるので、有効なものとそうでないものを分けることは重要と思います。疫学用語でいうと、effect modifier(治療効果の修飾因子)を探る作業になります。
例えばランダム化をしても、effect modifierは対処できませんし、外的妥当性に関わってくるケースが多いです。

まとめ

今回はインドの小児で2週間以上続く下痢にプロバイオティクスを使用してみたところ、下痢の期間が頻度が減り、入院日数も短くなりました。

一方で、細菌性の下痢の場合は有効性が乏しい可能性が示唆されていますが、サンプル数は少ないので追加で検証は必要と思います。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。