急性胃腸炎に伴う嘔吐は小児の脱水や不快感を増強し、救急外来受診後も症状が長引くことが少なくありません。本研究では、生後6か月から18歳未満の小児を対象に、救急部退院時に経口オンダンセトロンを最大6回分処方し、プラセボ群と比較する二重盲検・無作為化優越性試験を6施設で実施しました。主要評価項目として、登録後7日間に中等度以上の胃腸炎が発生する割合を設定し、オンダンセトロンの多回投与が臨床転帰の改善に寄与するかを明らかにしています。
Freedman SB, Williamson-Urquhart S, Plint AC, Dixon A, Beer D, Joubert G, Pechlivanoglou P, et al. Multidose Ondansetron after Emergency Visits in Children with Gastroenteritis. N Engl J Med. 2025;393(3):255–266. doi:10.1056/NEJMoa2503596.
救急外来受診後の小児胃腸炎に対する多回投与オンダンセトロン[カナダ編]
研究の背景/目的
オンダンセトロンは急性胃腸炎による嘔吐を呈する小児に対して、救急部で投与すると予後を改善する。帰宅・退院時に処方されることが多いが、その有用性を裏づけるエビデンスは限られている。
研究の方法
急性胃腸炎による嘔吐を示す生後6か月~18歳未満の小児を対象に、カナダの6小児救急部で二重盲検・無作為化優越性試験を行った。
保護者には経口オンダンセトロンまたはプラセボ6回分を渡し、登録後48時間の嘔吐が続く際に投与してもらった。
主要評価項目は、修正版ヴェシカリスキースケールで9点以上(0~20点で高得点ほど重症)と定義される中等度~重度の胃腸炎が、登録後7日以内に発生する割合とした。
副次評価項目は嘔吐の有無、嘔吐持続時間(登録から最後の嘔吐まで)、登録後48時間の嘔吐回数、登録後7日以内の臨時受診、点滴治療の施行率である。
研究の結果
1,030例が無作為化された。解析可能な452例中23例(5.1%)のオンダンセトロン群と、441例中55例(12.5%)のプラセボ群で中等度~重度の胃腸炎が発生した(未調整リスク差 −7.4ポイント、95%信頼区間 −11.2 〜 −3.7)。
施設・体重・欠測を調整後、オンダンセトロンはプラセボより重症化リスクを低減した(調整オッズ比 0.50、95%信頼区間 0.40〜0.60)。
嘔吐の有無と嘔吐持続時間の中央値に有意差はみられなかったが、登録後48時間の嘔吐回数はオンダンセトロン群で少なかった(調整率比 0.76、95%信頼区間 0.67〜0.87)。
臨時受診率と点滴施行率に大きな差はなかった。
有害事象の発生率も両群で同程度だった(オッズ比 0.99、95%信頼区間 0.61〜1.61)。
結論
救急外来受診後の小児胃腸炎において、オンダンセトロンを投与すると、プラセボと比較して翌7日間の中等度~重度胃腸炎リスクが低減した。
考察と感想
オンダンセトロンの多回投与によって救急退院後の中等度以上の胃腸炎発症リスクが半減に近い効果を示した点は非常に示唆的です。臨床現場では退院時に嘔吐再発を懸念して止むを得ず抗悪心薬を処方することが多いものの、その有効性を裏づける大規模な無作為化比較試験は限られていました。本研究はそのギャップを埋めるものであり、患者・保護者の不安軽減や受診抑制にもつながり得る成果と感じました。
今後は長期的なフォローアップやコスト効果分析を加え、標準的ガイドラインへの組み込みを検討すべきです。併せて、重症例を含む幅広い年齢層や、ウイルス性以外の胃腸炎患者への適用可能性についても検討することで、小児救急医療の質向上に貢献できると考えます。
日本においてオンダンセトロンを小児胃腸炎後の自宅管理薬として標準化するためには、まず国内承認の適応拡大や処方指針の整備が必要です。
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