小児科

【論文解説】川崎病とインフリキシマブ

川崎病の治療は;

  • アスピリン
  • 免疫グロブリン
  • ステロイド

が中心となっていますが、これら以外にもいくつか選択肢があります。

近年、注目されているのがインフリキシマブ(レミケード®︎)でして、この薬の有効性を示した論文がでてきたので、解説してみます;

インフリキシマブについて

インフリキシマブ(レミケード®︎)はTNF-αという炎症性サイトカインを抑制することで、炎症を抑える薬です。
川崎病は全身の血管炎のため、インフリキシマブで血管の炎症を抑制するのを目的に使用されつつあります。

川崎病とインフリキシマブについて

インフリキシマブが川崎病に最初に使用されたのは2004年で、Weissらが3歳児の川崎病に使われました。

その後、インフリキシマブを川崎病の初期治療に使用した研究がされました。
この研究では、治療抵抗性を減らすことはできませんでしたが、発熱期間や炎症のバイオマーカー、冠動脈径などを改善することがわかっています。

 日本でも難治性の川崎病にインフリキシマブは使用されてきましたが、インフリキシマブの有効性を評価した大規模研究はありません。

このため、今回の研究では、川崎病におけるインフリキシマブの有効性を国レベルの大規模なサーベイを利用して評価しています。

研究方法について

2007年〜2014年の川崎病全国調査のデータを使用しています。
このデータでインフリキシマブを使用した医療施設に、個別に患者背景、治療内容、アウトカムをアンケートで調査しています。

統計手法について

Kaplan-Meier curveでインフリキシマブの開始から解熱までの期間を検定しています。
連続変数についてはWilcoxon signed-rank testを使用しています。

研究結果

57施設から443人の患者データを集め、9人が除外されたため、残りの434人を対象に解析されています。

インフリキシマブ投与の中央値は9日で、68%の患者は第10病日までに治療開始されています。
第3(63.4%)あるいは第4の治療(24.4%)として用いられるケースが多かったようです。

インフリキシマブ投与から解熱までの期間

f:id:Dr-KID:20180103162834p:plain(論文より拝借)

 こちらがインフリキシマブ投与から解熱するまでの期間を示したKaplan-Meier曲線です。
83.6%の患者は、使用後48時間以内に解熱しているのがわかります。
27.4%の患者は、インフリキシマブ使用後に免疫グロブリン、ステロイド、シクロスポリンA、ウリナスタチン、血漿交換などの追加治療が必要でした。

検査データについて

Kobayashiらが開発した川崎病のリスクスコアは、インフリキシマブ後に追加治療が必要だった群と必要でなかった群で、統計学的な有意差を認めませんでした。

f:id:Dr-KID:20180103163444p:plain

(論文より拝借)

こちらのtableでは、インフリキシマブ治療前後の検査データです。
CRPや白血球など、ほとんど全ての検査データが、インフリキシマブ投与後に改善しています。

冠動脈径について

インフリキシマブ投与前に冠動脈病変を認めていたのは30.4%、投与後に認めたのは10.3%、冠動脈径が増加したのは24.2%でした。

論文の考察

インフリキシマブの有効性として;

  • 48時間以内の解熱効果が84%で認めた
  • 炎症マーカーが改善した

の2点があげられます。

冠動脈病変の予防効果について

この研究ではインフリキシマブ開始前にすでに30%程度で冠動脈病変を認めており、その有効性の評価が難しいです。

著者らはコントロール群がいないことを前提に、冠動脈病変の頻度の比較から、インフリキシマブの有効性を間接的に示唆しています。

私的な考察(疫学者の視点から)

川崎病の標準治療は免疫グロブリンとアスピリンで、ステロイドを併用するのが標準治療となっています。
インフリキシマブは基本的に高価な薬剤ですので、ステロイドに先行して使用するならば、その高いコストに見合うだけの有効性を証明する研究が必要と思いました。
(この辺りは、論文の趣旨から少し外れるので、このくらいにしておきます)

解熱期間に関する疑問

著者らはKaplen-Meier曲線を使用していますが、この手法は租解析にあたります。
患者間のばらつきは対処できていません。

つまり、 解熱は自然に解熱したのか、以前に投与された治療のspill-over effectなのか、インフリキシマブの真の効果なのか、これだけで判断することは厳密にはできないでしょう。

検査データの改善に関する疑問

インフリキシマブは強力な薬ですので、使用すれば解熱し、検査データ・炎症マーカが改善するのは、ある程度予測できると思います。

臨床的な改善(冠動脈病変)を証明できずに、結論部分で「very efficatious」と述べてよいものか、疑問が残ります。(何に対して”efficatious”と述べるかにもよると思いますが…。解熱がアウトカムであれば、そうだとは思います)
また、「Very efficient」というには、研究においては他剤との比較が必要と思います。

Limitationと研究デザインに対する疑問

有効性を確認するために前向き試験をすべき、と著者らは主張しています。
それは当たり前なのですが、今回のこのような後ろ向き研究でもインフリキシマブ投与群と非投与群の比較は可能と思いました。

例えば、インフリキシマブ投与群と非投与群の詳細なデータを多施設で集め、PS matchingや IP weightingで比較する手法です。

今回の研究では、Nはそこそこあるので、比較は不可能ではないと思いますし、何より前向き試験をするより低コスト・低マンパワーで実現可能ですので、試されてみてもよいかと思いました。

まとめ

  • インフリキシマブ投与後48時間で80%以上は解熱した
  • インフリキシマブ投与後に血液検査結果は改善した
  • インフリキシマブが冠動脈病変のリスクに与える影響は「?」のまま

 

 ◉ 非医療者向けの川崎病の本はこちら。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。