ドクター・キッド

〜小児科医が解説する子供の健康・病気・育児〜

【論文】医師が本来は効かないはずの治療を行う8つの理由

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www.bmj.com

今回はBMJ誌に掲載されている、こちらの論説をピックアップしました。

少し私なりの解釈も加えながら、説明していこうと思います。

なかなかセンセーショナルなタイトルでして、

  • 「なぜ医師は効かない治療を行うのか?」

です。論文中には8つの理由があげられており、

  • 臨床的な経験則による
  • 副次アウトカムへの過剰な信頼
  • 病気の自然経過を薬の有効性と誤認
  • (間違った)病態モデルへの愛着
  • 儀式や神秘性
  • 「何かをしなければ」という必要性
  • だれも疑問点を聞かないから
  • 患者の希望・要望

です。以下は論文に記載されている段落のポイントに沿って、私なりの解釈を載せています(直訳ではありません)。

 

 

1. 治療効果を大きく見積もりすぎている

医師が本来は無効である治療を行ってしまう理由の1つに、治療効果を間違って見積もっている可能性があります。

実臨床では、

  • 治療をする(薬を処方する)
  • 患者の状態が変わる(良くなる、悪くなる、変わらない)
  • 効いたか否か判断する

の3点で判断されているケースがほとんどでしょう。

これは医師-患者の間で行われるフィードバックで、医師の経験として貴重でかけがえのないものだと私は考えています。

しかし、この「経験則」にだけ過剰に頼ってしまうと、

  • 使った
  • 治った
  • 効いた

という誤った「3た論法」に陥ってしまう危険性があります。

「3た論法」の欠点として、とある患者に治療をしたとして、

  • 治療のおかげで軽快した
  • 自然に治った(つまり治療しなくても軽快した)

のいずれかは分からないケースがあり、治療効果を誤って捉えてしまうことがあるためです。

医師-患者の個人レベルでは、この2つは見分けられないことがあるため、ランダム化比較試験(RCT)や観察研究が多数行われています。

 

2. 病態生理モデルへの偏愛

  • 医学とはサイエンス(科学)である
  • 病態生理モデルの理解は、治療をするうえで必須である
  • 病態生理を知らずして治療をするのは、非常におこがましい

などなど、医学生時代から病態生理の理解が重要と教育されています。ごもっともな格言と私も思っています。

もちろん私も医学はサイエンスだと思っていますし、病態生理を理解することは非常に重要と考えています。

ですが、既存の病態生理のみに基づいて治療を行うと、時に誤った治療をしてしまうことがあります。

βブロッカーなどを例に

例えば一昔前まで、病態生理モデルに基づいて

  • βブロッカーは心不全には禁忌である
  • 体液補充(fluit replacement)には、晶質液より膠質液が優れている

などを教えられてきました。

しかし、これらの教えは、その後の臨床試験で覆されています。

「実臨床は生理学の教科書よりも奇」なのです。

病態生理モデルのみに固執するのは、やや盲目的なものの見方で、

  • 既存の病態生理モデルが間違っていた
  • 薬の知られていない効果が見逃されていた

などの可能性を根拠なく否定してしまいます。

(*とはいえ、病態生理を理解することは非常に重要です)

 

3. 不十分なアウトカムの評価

アウトカムとは、治療をした結果起こりうることです。例えば、

がアウトカムの候補になります。もちろん、アウトカムが死亡や入院率、再入院率などのことも多数あります。

アウトカムの評価が不十分であったり、そもそも研究デザインが間違っているケースもあります。

不整脈薬を例に

不整脈では心電図に異常が出現し、頻脈になったりします。

不整脈薬を投与して、心電図が正常に戻れば、不整脈発作は減りそうな気がします。

しかし、とある不整脈薬は、臨床試験中には心電図波形を正常化に成功しましたが、後に患者の死亡率をあげてしまったことがあります。

  • 心電図波形の正常化
  • 不整脈発作の頻度
  • 致死率

など多数ある臨床のアウトカムから、「心電図波形の正常化」のみしか評価せず、より患者さんの真の利益(発作の頻度低下、致死率の低下など)を考慮しないと、治療がかえって健康に悪影響をする可能性があります。

臨床試験は限られた費用と時間で行われるため、患者さんの健康のアウトカムを全て把握できるほど、長期間にわたり行われるケースはそれほど多くないと思います。

この抗不整脈薬の例は、薬が市場に出てからも、安全性や有効性を追跡することの重要性を教えてくれています。

川崎病ステロイドを例に

小児医療でも同様のことが起きています。

例えば「川崎病ステロイドは禁忌」とずっと言われてきました(いまだに「禁忌」と言っている方も多数います)。

しかし、「禁忌」とまで言われるわりに、質の高い臨床試験はかつては皆無でした。

つまり、ステロイドを使用した結果重症化したのか、重症だからステロイドを使わざるを得なかったのか、きちんとアウトカムを評価されていなかったのです。

これに疑問をもった勇気ある日本のグループがステロイドの有効性をLancetという医学英文雑誌に報告し、「ステロイドは有効」と覆りました。

 

4. 形式的(儀式的)に治療や検査をしている

時に、検査や治療が儀式的に行われていることがあります。

(本文の直訳で)儀式的というと少し言葉が悪いかもしれません。慣習・形式的というとわかりやすいかもしれません。

例えば小児医療を例にすると、

  • 感染症入院患者全員にCRP
  • 急性気管支炎の診断に胸部レントゲン
  • 食物アレルギーのスクリーニングに血液検査
  • かぜに咳止め、鼻水止め

 などがあげられます。

少し極端な例をあげると、インフルエンザ流行期の発熱患者へのインフルエンザ検査、かぜに抗菌薬も同じです。

習慣として根付いてしまった場合、診断的な価値としての検査や、治療効果を目的としての治療ほどの価値がないかもしれません。

 

5. 医師が「何もしない」に耐えられない

  • 「医師として患者さんに何かをしてあげたい」

という思いで医療をしている医師が大半と思います。
ですが、時に「何も有効な治療がない」という状況があります。

このような状況でも「有効性がない薬を使用する(例えば、がん患者に対する抗がん剤の投与)」ケースもあるでしょう。

批判を恐れずに言うと、ひょっとしたら「『何もしない無力な自分』に主治医自身が耐えられない」だけなのかもしれません。

 「有効な治療がない」は、医師として「何もできない」わけではないでしょう。

患者さんの苦痛を和らげる治療であったり、家族のサポートに協力するなど、限られてはいますが「病気そのものに抗う(あらがう)」以外でも、医師としてできることは沢山あると私は思います。

 まとめ

医学はもちろんサイエンス(科学)としての側面がありますが、病態生理を偏愛したり、エビデンスの評価方法を知らず(Evidence Based Medicine: EBM)、経験則に頼りすぎると、気がつくと「無効な治療(有害ですらある)」を患者さんに強いてしまうことになります。

  • 標準的な治療とはなにか
  • なぜ「標準的」になったのか?(根拠となる研究・論文の内容)

を理解することが求められる時代です。

 医師として大事なことは、アクセスできる医療情報を取捨選択しつつ、自身の診療プラクティスに常に疑問をもち続けることなのかもしれません。

 

◉ こちらの論文は、康永秀生教授の著書の参考文献に掲載されていることから気づきました。健康と経済について、非常にわかりやすく書かれています。様々な視点から健康と医療経済について記載されており、大変素晴らしい書籍と思います。医療者も非医療者の方々も、一読をお勧めします。

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