小児科

【論文】CTで放射線被曝をすると、白血病や脳腫瘍のリスクはどのくらい上がりますか?【患者相談】

今回は2012年にLancetという(有名な)英文医学雑誌に掲載された論文をピックアップしました。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22681860

この論文はオープンアクセスですので、どなたでも英文を全文読むことができます。

研究の背景

CTは病気の診断や、重篤な疾患の除外をするために使用されています。

MRIと比べてCTは短時間で撮影することができますし、現代の医療では欠かせない検査法となっています。

放射線への被曝と発ガンについて

放射線へ被曝することで発ガンすることはご存知の方が多いでしょう。

放射線への被曝と発ガンの研究は、日本では核爆弾が投下された広島や長崎の生存者から判明したものも数多くあります。

とはいえ、これらの研究で受けた被曝量はCT検査と比較しても非常に大きく、単純に比較することはできません。

また、広島・長崎の生存者から検討されたデータは日本人のデータであり、他の人種への外的妥当性もはっきりとしていません。

このため、今回はイギリスの小児において、CTへの被曝が将来の脳腫瘍や白血病に影響するかを検討しています。

研究手法について

今回は後方視的なコホート研究が行われました。

後方視的なコホート研究では、データベースなどを利用して、対象とした集団を過去からさかのぼって行う研究です。

  • イギリスの81施設で
  • 悪性腫瘍のない22歳以下の小児を
  • 1985年〜2002年まで追跡し
  • ガン(白血病と脳腫瘍)の発症率

をみています。

患者情報は誕生日、性別、CTの撮影部位を取得しています。

 追跡開始後2年以内の白血病、5年以内の脳腫瘍は除外

  • 追跡開始から2年以内の白血病
  • 追跡開始から5年以内の脳腫瘍

は除外されています。

これは、逆の因果(Reverse Causation)を避けるために行われた手法です。

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上の図のように理解すると分かりやすいかもしれません。

CTは白血病や脳腫瘍のリスクであるというには;

  • 脳腫瘍・白血病(が既にあり)の初期症状(診断前)でCT検査を受けた人たち

を除外する必要があります。

なぜなら、脳腫瘍や白血病になる運命の人たちが、頭痛・嘔吐などの様々な症状の精査でCTを撮影されているからです。これは、CTが白血病・脳腫瘍を起こしたのではなく、脳腫瘍・白血病の初期症状でCTを受けたからです。

今回の研究では33,372人が除外されています。

被曝量は年齢や検査機器から推定されました

過去の記録をさかのぼって行われた研究ですので、CTの被曝量は推定するしかありません。

検査された部位、撮影された年、性別などから、どのくらい被曝したか予測されています。

例えば、頭部CTを行なった場合は、以下のように推測されています。

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研究の結果

およそ18万人弱のデータが解析されました。

発症率は

  • 白血病:74例/ 1,720,984 Person-Year
  • 脳腫瘍:135例/ 1,188,207 Person-Year

となっています。

*1 Person-Yearは、1人を1年追跡したことを意味します。今回は18万人弱参加しているので、1人あたり172万 Person-Year /18万 ≒ 9.55 年ほど追跡していることになります。

被曝量が増加すれば発ガンのリスクは高まる

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こちらの図から、被曝量が増えるほど、白血病や脳腫瘍のリスクが上昇しているます。

  • 50 mGyほど被曝すると、白血病のリスクは3.2倍
  • 60 mGyほど被曝すると、脳腫瘍のリスクは2.8倍

と推定されています。

研究の考察

結局どの程度被曝すると白血病や脳腫瘍のリスクが上がるのか?

結果をみると、50〜60 mGy以上の被曝をするとリスクが上がると記載されていますが、それはCTを何回撮影したことになるの?と疑問がわくと思います。

著者らによると

  • 2〜3回の頭部CTを撮影すると脳腫瘍のリスクが約3倍
  • 5〜10回の頭部CTを撮影すると白血病のリスクが約3倍

と推定しています。

この研究は本当に妥当(信用してよい)か?

この研究が発表された後に、各専門家(放射線科医や疫学者)から妥当性について批判がされています。

1つは、CTを撮影した理由が不明である点です。

上の図に示した通り、著者らは逆の因果(Reverse Causation)を除外して否定はしていますが、そもそもなぜCTを撮影したのか、この研究では解析に考慮されていません。

CT検査を受けるということは、外傷を含め健康に問題があったわけです。この点については疫学的な手法で十分に考慮する必要が本来ならあります。

他にも、環境からの被曝量は考慮されていませんし、CTによる被曝量があくまで推定値である点も疑問がよせられています。

ここにあげた原因への検討が不十分であり、リスクを過剰に推定している可能性は十分ありうると思います。

*著者らに対する質問はこちらから閲覧できます

まとめ

今回の研究では、頭部CTなど放射線被曝は白血病や脳腫瘍のリスクを上昇される可能性が示唆されています。

2〜3回の頭部CTでリスクが3倍はやや過剰に推定されているかもしれません。しかし、小児に不必要な検査を避けるのは、臨床医として必要な考え方でしょう。

関連記事:頭部打撲とCTについて

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ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。