ドクター・キッド

〜小児科医が解説する子供の健康・病気と単なる雑記〜

日本のマイコプラズマは9割が耐性菌だった!?

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前回、こちらの記事で、風邪に抗生剤を処方する医師の傾向を説明してきました。

こちらの研究結果で分かったのは;

  • 開業医は風邪に抗生剤を出す
  • 時間外受診を担当する医師は抗生剤を出す
  • 非小児科は小児に抗生剤を処方しがち

でした。

■ 抗生剤処方の教育を十分に受けていない医師は多数いる

Antibiotic Drugs

ちょっと過激な発言ですが、開業する医師は基本的に年配の医師が多く、この世代の医師は抗生剤の使い方について、きちんと教育を受けていない方が多い印象です。
感染症科』という抗生剤の使い方を教えてくれる医師がほぼいなかった時代に育ってしまったため、専門科から教育を受ける機会が少なかったのでしょう。

このため、抗生剤の使い方はかなり適当で、特に新しい抗生剤が発売されると、すぐに使用したり、広域な抗生剤を多用する傾向があります。

個人的にも、紹介患者に出されている抗生剤の処方内容を見て、首をかしげることが多々あります。
現に、私の知り合いの感染症科の先生も、一向に改善しない抗生剤の使用の仕方に頭を悩ませています。

■ なぜ『抗生剤の適正使用』が叫ばれているのか?

現在、厚労省も日本小児科学会も『抗菌薬の適正使用』に徐々に力を入れています。
抗生剤の処方は、徐々に規制が強くなっていくと思われます。
不必要な抗生剤の処方を減らすことで;

  • 耐性菌を減らしたい
  • 医療費を減らしたい
  • 抗生剤による副作用を減らしたい

といった意図があるのだと思います。

■ 日本の耐性菌は結構ヤバいレベル

本日、紹介する論文はこちらです:

 2011年〜2012年にマイコプラズマ肺炎が大流行した時のデータです。
(下の写真はマイコプラズマ

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この研究の背景

まずはマイコプラズマの耐性菌について、簡単な説明からしていきましょう。

■ マイコプラズマの耐性菌(日本)

小児肺炎の原因の2〜3割くらいがマイコプラズマです。
マイコプラズマ肺炎の治療で抗生剤を使用しますが、普通はまずマクロライド系の抗生剤を使用します。
例えば、エリスロマイシン、クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)、アジスロマイシン(ジスロマック)などが代表的です。

近年、日本のマイコプラズマはこの『マクロライド系抗生剤』に耐性ができており、

  • 2000年に小児での耐性が初めて確認
  • 2003年5%が耐性
  • 2008年39%が耐性

と徐々に耐性菌が増加してきています。

■ アジアと欧米では耐性菌の割合は大きく異なる

アジアでも抗生剤に耐性となったマイコプラズマは増えており:

  • 中国では80%以上が耐性菌
  • 韓国でも同じレベル

と報告されています。

一方、欧米(特にヨーロッパ)は抗生剤の適正使用は日本より進んでおり、耐性菌の割合は日本を含むアジアと比べて、遥かに低いです。
例えば;

  • デンマーク:1〜3%
  • アメリカ:8%
  • ドイツ:3%
  • フランス:10%

となっています。比較的、耐性菌の多いイタリアやイスラエルでも25〜30%くらいといわれています。

■ 耐性菌に効く薬について

マイコプラズマ感染症は、軽症の場合は風邪くらいの症状で治まるため、抗生剤は使わなくても自然軽快することも多いです。
一方で、肺炎や気管支炎になった場合などは、抗生剤が必要になります。

耐性となっているマクロライド系以外の抗生剤は;

が使用できます。
ですが、これらの薬には副作用もあります。

例えば、ミノマイシンを7歳未満の小児に使用すると、歯が灰色になってしまうことがあります。
トスフロキサシンは関節や靭帯に悪影響を与える可能性が懸念されています。

さらにもっと困るのは、これらの薬を乱用すると、マイコプラズマの耐性化が進んでしまいます。

研究手法について

Studying

研究の対象は:

  • 15歳未満の258人の入院患者(5つの市中病院)
  • PCR法(遺伝子増幅検査)でマイコプラズマを検出
  • 抗生剤への耐性をチェック
  • 発熱期間などを比較

をしています。

研究結果と解説

まずは耐性菌の割合から見ていきましょう。

■ 耐性菌は9割弱もいた...

ショッキングな結果ですが、検出されたマイコプラズマのうち、87%は耐性菌でした。
つまり、9割弱は、第一選択薬であるマクロライド系抗生物質が効かないのです。

このため、8割程度の患者は、小児科的には本来は使用したくない抗生剤(オゼックスやミノマイシン)へ切り替える必要がありました。 

これだけ耐性菌が多い理由は明確で、マクロライド系の抗生物質は、日本の外来では1〜2番目に多く処方されているからです。

特に昔から小児科や耳鼻科でも『気管支炎に効く、抗炎症作用がある、気道のクリアランスがよくなる(痰がキレる)』などを謳い文句に、かなり処方されていた影響と思います。 

■ 耐性菌にかかると肺炎の症状は長引く

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耐性菌の場合、マクロライド系抗生物質が効かないため、マクロライドを使用しても熱はなかなか下がりませんでした。

一方で、有効な抗生剤(オゼックスやミノマイシン)を使用した場合は、およそ1〜2日で軽快しています。

とはいえ、これらの抗生剤を安易に使用しすぎると、将来的に本当に使える抗生剤がなくなってしまう懸念が大いにあります。

まとめ

耐性を獲得したマイコプラズマは年々増えていて『5%→39%→87%』と、とんでもない勢いで増えています。

耐性菌にかかると、熱が長引いたり、最初の抗生剤(マクロライド系)が効きづらい可能性が高いです。

マイコプラズマ感染を含め、抗生剤の使用方法を見直したり、医師への抗生剤の適正使用を促す必要があります。

■ 関連記事

 続報:耐性菌の割合は徐々に減っているようです

こちらの報告によると;

  • 2012年:81.6%
  • 2013年:65.8%
  • 2014年:59.3%
  • 2015年:43.6%

と耐性菌は徐々に減少しているようです。